平成29年9月1日
地方国立大学の現状と期待される役割
宇都宮大学教授 大森 玲子この著者の書いた書籍
平成16年に国立大学が法人化され,今年度が14年目となります。私が現職に着任したのは平成18年のことで,当時,すでに私大に着任していた恩師から「これからは,地方の国立大学も学生集めに苦労するだろうし,交付金(運営費交付金)も削減されていくだろうから大変になるね。頑張って」と,声を掛けられたことを覚えています。
法人化以降,国立大学法人は,文部科学大臣が定める6年間の中期目標に基づき,中期計画および年度計画の策定が義務づけられ,政府から交付される運営費交付金は,毎年1%程度削減されてきました。交付金削減の煽りは,大学から教員に配分される研究費の減少,後任人事の凍結,非常勤講師の削減等に及び,卒業生や企業からの寄付金や外部資金獲得が少なければ大学運営は多大な影響を受けることとなります。
教員が退職あるいは転出した場合,後任人事が進む保障はありません。当該学部の将来,あるいは大学全体のビジョンにとって,そのポストが重要か否かで優先順位がつけられ,優先順位が低ければ補充されることはないのです。後任人事が凍結すると,専門分野の近い教員が授業を引き継ぐか,非常勤講師に依頼するのですが,その非常勤講師予算すら削減されつつあります。そのため,その授業を隔年開講とするか,選択科目であれば廃止とするのか,資格や免許に絡む授業にあっては,その資格や免許等の取得存続を含めた検討を余儀なくされます。
第二期計画中盤の改革加速期間にはミッションの再定義が課せられました。各大学は,有する強みや特色,社会的役割を整理し,機能強化の方向性と戦略について提案して“地域貢献型”“全国的な教育研究型”“世界で卓越した教育研究型”の重点支援三枠から選択し予算配分につながる評価を受けることとなりました。“地域貢献型”は55大学,“全国的な教育研究型”は15大学,“世界で卓越した教育研究型”は16大学が枠組み内で評価され,その評価の高かった大学は,第三期計画(平成28~33年度)開始とともに運営費交付金等が増額されました。86大学中,平成28年度は42大学,平成29年度は41大学が増額となっています。
今年6月に公表された地方創生の推進に向けた施策『まち・ひと・しごと創生基本方針2017』では,地方大学の振興が掲げられ,地方創生に資する大学改革がますます求められることとなりました。地方のニーズを踏まえた組織改革等を加速し,それぞれの特長や強みをさらに強化する必要があるとして,今後,地方創生に資するメリハリの効いた予算配分が検討されていく予定です。
今は,絶え間なく大学改革を進めることが求められ,学部や大学院が新しく設置されては数年後には改組が検討されるような状況にあります。年度計画のための調査依頼や書類作成等が多くなり,人員削減により一人の教員が担う組織運営業務が増えています。大学教員として,教育の質の向上にかかわる検討や専門分野の研究遂行,地域の方々との連携活動等も同時に進めていかなければなりません。大学教員の仕事とは何か。立ち止まり改めて考えるよい機会となりました。
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