平成29年9月1日
評価を考えた学校における食育の目標設定
お茶の水女子大学教授 赤松 利恵この著者の書いた書籍
平成27年10月総務省は「食育の推進に関する政策評価」を発表した。この中で,栄養教諭は学校における食育推進の中核的役割として評価の対象になっている。文部科学省が到達(達成)目標「児童生徒が食に関する正しい知識や望ましい食習慣を身に付ける」の評価(成果)指標として「朝食を欠食する子どもの割合0%」を設定し「栄養教諭配置数の増加」をその活動指標(実施目標)としていることから,総務省は,栄養教諭配置と子どもの朝食欠食の関係を調べた。その結果,栄養教諭配置と朝食欠食には関連がみられず,栄養教諭配置の効果の把握をさらに行う必要があると,報告している。
学校の食育関係者はこの結果をどう受け止めているのだろうか。課題は,文部科学省が掲げる前述の評価指標および実施目標の設定にあると考える。まず,到達目標に対する評価指標が適切であったか。「望ましい食習慣」には,「苦手なものでも食べる」など,他にもある。朝食は他の食行動に比べ,家庭への働きかけが必須となる食行動である。たった一つの評価指標として朝食を取り上げることには議論が必要である。さらに,0%の数値目標にも疑問が残る。朝食摂取の有無には社会格差も指摘されており,0%の達成には,格差解消を目指した介入も必要である。栄養教諭の配置で,達成できるものではない。
このような目標設定の課題は,学校現場でもみられる。①子どもの変化の目標が立てられていない,②子どもの食習慣の変化をみていない,③評価指標を立てていない,といった課題である。①は,例えば「食育の全体計画を作成した」など,子どもの変化ではない評価を食育の成果としてあげるケースである。自分たちの実施目標と子どもの変化の目標を区別していないために起こる。②は,知識や意欲といった認知の目標のみで,行動の目標を設定していないという課題である。「~しようとする」「~できるようになる」という目標はそれぞれ,意欲や行動意図といった気持ちの変化を目標にしている。このような目標では,行動の変化を目指した指導計画は立てられない。③は,抽象的な目標のまま始め,評価段階で評価ができないという課題である。例えば「楽しく食べようとする」という目標を立てた場合,何をもって「楽しく食べる」子どもなのか,その評価指標を立てないと評価はできない。
栄養教諭の配置が進み,食育の実施は全国的に増えている。しかし,目標設定が適切にされていないため,食育の評価ができていない。私が所属する日本健康教育学会栄養教育研究会では,現在,学校における食育の評価が目に見える形で実施されることを目指し,活動を行っている。目に見えるものだけが,食育の成果ではないが,栄養教諭が社会的に認知され,評価されるためにも,目に見える形の評価は必要である。今回の総務省の評価は,栄養教諭だけの責任ではない。学校の食育関係者全員がそれぞれの立場でできることを考え,これからの食育に臨まなければならない。
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