平成29年9月1日
医学部(医学生)における栄養学教育
日本医科大学大学院教授 折茂 英生この著者の書いた書籍
生活習慣病の発症因子としての食事や,高齢者の栄養補給についての社会的関心が高まっており,医師はより的確な栄養知識・スキルを求められています。一般には医師は栄養に関して知識・スキルをもっていると信じられていますが,実際には系統的な知識・スキルをもっていない医師は多く,その原因として医学教育の問題があげられます。
医学教育において栄養学が十分な認識を受けていないのは日本だけではなく,世界的な現象ですが,近年欧米ではこれを見直す動きが出てきています。ほかの先進国に先がけて超高齢社会に突入した日本では,本来いち早くこの問題に取り組むべきでしょう。日本の卒前医学教育の内容は,文部科学省の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」と厚生労働省の「医師国家試験出題基準」により,細かく規定されています。最近の改定で栄養学にかかわる内容は増加していますが,独立した項目としてはとりあげられていません。こうしたガイドラインで,分散して記載されている各項目を集めればかなりの栄養学的トピックは網羅されていますが,分散されたトピックを学生自身が栄養学として一つの概念にまとめるのは困難です。
医科栄養学教育の課題の多くはアメリカなどほかの先進国と共通していて,以下の三点があげられます。第一に,栄養学が医学のサブスペシャリティの一つとして認識されていないことで,教育に限らず文部科学省・日本学術振興会などの科学研究費補助金申請にも,医歯薬学系の分科・細目に「栄養学」はありません。これに対しては広い意味で医療の基盤としての栄養学への認識を高めていく必要があります。
第二に,医学教育の内容が膨大で,新しい分野が参入する余地がないことです。しかし近年の医学教育は,かつての座学中心から,実習や演習,特に少人数教育重視に移行しています。仮にまとまった講義時間がとれなくとも,既存のコース内で栄養に着目した統合的プログラムを組んだり,少人数演習のテーマとして栄養に関する問題をとりあげたりするだけでも,学生の認識の変化につながります。
第三に,現在の医学部・医科大学に包括的に栄養学を教えられる教員が少なく,教科書も存在しなかったという教育者と教育ツールの問題です。これには,多職種,特にNSTチームのメンバーや付属病院栄養科の管理栄養士の教育への参加など,チームを組んで教育に当たることで,それぞれの得意分野をもつ教員の協力により補うことができると考えられます。また,信頼できる教科書があれば教員にとっても拠り所となり,無論学生の自学自習の助けともなります。
今般刊行された『研修医・医学生のための 症例で学ぶ栄養学』は,日本語で書かれた初めての研修医・医学生をターゲットとした栄養学の教科書です。上記のような背景・目的により,大いに活用されることを期待しています。
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