建帛社だより「土筆」

平成30年9月1日

これからの世界を創り出す子どもたちを育む

文部科学省初等中等教育局視学官 東良 雅人この著者の書いた書籍

 ローバル化は私たちの社会に多様性をもたらし,AI(人工知能)をはじめとする様々な技術革新は,私たちの生活を質的にも変化させつつあります。
 れからの予測困難な時代を生きる子どもたちには“社会の変化にいかに対処していくのか”というような受け身の対応ではなく,社会の変化を前向きに受け止め,主体的に向き合ってかかわり合っていくことが大切だと思います。
 のようなこれからの社会を見据えた「学習指導要領」の見直しについては,平成26年11月の諮問以来,中央教育審議会において検討が進められ,平成28年12月21日に『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(以下,答申)が取りまとめられました。
 申では,2030年の社会と,さらにその先の豊かな未来において,一人ひとりの子どもたちが自分の価値を認識するとともに,相手の価値を尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,よりよい人生とよりよい社会を築いていくために,教育課程を通じて初等中等教育が果たすべき役割を示すなど,社会に開かれた教育課程の実現の重要性について述べています。
 こでは,学校が社会や世界と接点をもちつつ,多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる,開かれた環境となることが不可欠であること。そして,学校が社会や地域とのつながりを意識し,社会の中の学校であるためには,学校教育の中核となる教育課程もまた,社会とのつながりを大切にする必要があるとしています。
 申では,これまでの現状などを踏まえ,社会に開かれた教育課程において重要となる点について以下のように述べています。
 ① 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ,よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標をもち,教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
 ② これからの社会を創り出していく子どもたちが,社会や世界に向き合いかかわり合い,自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを,教育課程において明確化し育んでいくこと。
 ③ 教育課程の実施にあたって,地域の人的・物的資源を活用する,または放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図り,学校教育を学校内に閉じずに,その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。
 後,子どもたちの日々充実した生活を実現し,未来の創造を目指していくためには,学校と社会のそれぞれがそれぞれで子どもたちとかかわるだけではなく,「子どもの学びと育ち」を学校と社会が共有しながら連携を図り,すべての子どもたちが生活や社会と豊かにかかわることができる資質・能力の育成を目指すことが大切だと思います。
 が担当官を務めている中学校美術科の今回の改訂においても,これまで述べてきた答申の趣旨に基づき,教科の目標の柱書に「生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力の育成を目指す」と示しました。これは,すべての子どもたちが,単に上手に絵を描いたりものをつくったりすることだけにとどまらず,学習活動を通して,造形的な視点を豊かにもち,生活や社会の中の形や色彩などの造形の要素に着目し,それらによるコミュニケーションを通して,自分とのかかわりの中で美術や美術文化をとらえ,生活や社会と豊かにかかわることを目指したものです。
 どもたちは,私たちの社会や人生,生活を人間ならではの感性をはたらかせてより豊かなものにしたり,現在では思いもつかない新しい未来の姿を構想し実現したりすることができる無限の力をもっています。そして,社会との主体的なかかわり合いの過程を通して,子どもたち一人ひとりが自らの可能性を発揮し,単にこれからの社会に対応するだけにとどまるのではなく,よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身につけられるようにすることが求められているといえるでしょう。

目 次

第108号平成30年9月1日

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