建帛社だより「土筆」

平成30年9月1日

新学習指導要領が求める理科授業の姿

福岡教育大学教授  森藤 義孝この著者の書いた書籍

 育現場では,新たな学習指導要領の趣旨を踏まえつつ,それに基づく授業構想や授業実践が試行されるようになってきている。前回の学習指導要領の改訂では,すべての教科において,小学校から高等学校に至るまでの学校種間の連携強化が最重要課題とされた。その結果,理科では,小学校から高等学校に至るまでの学習指導内容を,エネルギー,粒子,生命,地球の四領域に大別して整理し,学習指導内容間の関係性が明確に示されるようになった。
 のように,前回の学習指導要領の改訂においては,主として,教科間というよりも教科内の整理が中心課題であったといえる。しかし,このたびの改訂においては,教科の違いを超えて,統一的な枠組みのもとですべての教科指導を語ることが重要視されたといえる。
 体的にいえば,すべての教科において,各教科固有の「見方」と「考え方」を働かせて学習活動を展開し,その結果として三種類の資質・能力を育成する,といった表現形式を採用し,教科指導について語ることが要請されたといえるのである。
 れまで,私たちは,子どもが保持する概念を指示する言葉として,見方,考え方,とらえ方,認識(認知),理解等の多様な表現を用いてきた。これらの言葉のどれを選択して用いるかは,好みの問題とみなされてきたのかもしれない。しかし,このたびの改訂において,見方と考え方は,極めて特別な意味が与えられることとなった。
 方は,「様々な事象を捉える各教科ならではの視点」を意味する言葉として位置づけられ,エネルギー,粒子,生命,地球の各領域で働かせる見方の代表例として,それぞれ「量的・関係的な視点」「質的・実体的な視点」「多様性・共通性の視点」「時間的・空間的な視点」が示された。一方,考え方は,「思考の枠組み」を意味する言葉として位置づけられ,その代表例として「比較しながら考える」「関係付けながら考える」「条件を制御しながら考える」「多面的に考える」が示された。
 のように,理科についていえば,前述の見方と考え方を働かせながら問題解決活動に従事し,理科としての「知識・理解」「思考力・判断力・表現力等」,そして「学びに向かう力・人間性等」といった三種類の資質・能力を育成することが求められるようになった。したがって,これからは,理科授業の構想や実践において,どのような見方と考え方を働かせるのか,そして,単元指導の目標として,どのような資質・能力を育成するのかを明確にしつつ,授業実践を重ねていくことが求められるのである。もちろんこれは,従来とは異質な理科授業の実現を要請するものではない。
 れまでに目指してきた理科授業の姿を劇的に変化させるというよりも,すべての教科の取り組みを統一的に表現できるようにするために導入された「見方や考え方を働かせて資質能力を育成する」といった表現形式を用い,理想としてきている理科授業の姿を語り直すことが,今,求められているのである。

目 次

第108号平成30年9月1日

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