令和2年9月1日
在宅訪問管理栄養士養成は喫緊の課題
武庫川女子大学教授 前田佳予子この著者の書いた書籍
日本は世界に類をみないスピードで高齢化が進み,2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者となり,しかも高齢者の約6割以上が大都市圏に集中する。
これを踏まえ,国は「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築」を推進している。
制度・分野ごとの“縦割り”や「支え手」「受け手」という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が“我が事”として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて“丸ごと”つながることで,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会が「地域共生社会」である。
そこでは,疾病や障害のある人びとの医療・療養の場は,医療機関や介護保険施設ではなく,主に「地域」すなわち「在宅」となる。在宅医療は対象者の要望や疾病の状態に応じて,入院・外来医療と相互に補完しながら生活を支える医療で,外来診療が困難な高齢者や医療的ケア児などが主な対象となる。再入院を防ぐには「栄養と食事」が鍵となる。在宅での食生活を安定させるのはたいへん重要であり,それを担うのが「在宅訪問管理栄養士」である。
2011年から公益社団法人日本栄養士会と一般社団法人日本在宅栄養管理学会では,専門的な実践力を備えた在宅訪問管理栄養士の育成を行っている。これまでの資格取得者は約千名だが,実際に訪問栄養食事指導に従事しているのはその約四割程度である。在宅訪問管理栄養士が少ない現状には次の理由が考えられる。①医療機関に所属する常勤・非常勤の管理栄養士でないと在宅訪問栄養食事指導の請求ができないこと。②患者の退院時にカンファレンスや退院時共同指導に参画できないこと。他職種に備わっている職種としての「顔」が認知されていないことや管理栄養士自身のコミュニケーション力・アプローチ力が弱いこと。③管理栄養士養成校で在宅訪問栄養食事指導についての学び,スキルの獲得へ向けた演習などが行われていないこと。
在宅訪問栄養食事指導は,医療保険による場合と介護保険による場合に大別される。医療と介護の両方に該当する場合,介護保険が優先され,その場合,利用について対象者または介護者の同意が必要で,「重要事項説明書」,「居宅療養管理指導契約書」,「サービス内容説明書」の3つの契約を結ばないと実施できない。つまり,「措置から契約へ」という福祉の理念を踏まえた,対象者との契約に基づくサービスであり,在宅訪問管理栄養士には,管理栄養士としての知識・スキルに加え,「対象者の尊厳の保持」といった福祉職としての倫理や共感力・洞察力も要求される。
高齢化率は2045年頃まで増加すると推計されており,地域における活躍の舞台はますます増加する。管理栄養士養成施設における教育内容を充実させ,職種としての「顔」が見える在宅訪問管理栄養士を数多く輩出することは喫緊の課題である。
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