令和2年9月1日
リスクにどう向き合うか
東北福祉大学教授 日本リスクマネジメント学会評議員 菅原好秀この著者の書いた書籍
日本リスクマネジメント学会は,1978年に創立され,日本学術会議法第十八条に基づくわが国唯一のリスクマネジメントに関する公認学術研究団体で,日本経済学会連合と経営関連学会協議会に加盟している。リスクマネジメントに関する,日本で最も古い研究団体であり,「組織と個人を取り巻くリスクの科学的管理―理論的研究から実践的展開まで―」について真摯に研究している学会である。
学会の創立者であり,ソーシャル・リスクマネジメント学会の創立者でもある亀井利明先生は「リスクは繰り返す。リスクは変化する。リスクは隠れている」と指摘され,今の時代を先取りし,リスクマネジメントの本質を体系化された。また,現学会理事長の上田和勇先生は,リスクへの対応について「最終的にはかかわる人(家族,地域住民,社員,国民など)の“心理的安全”そして“幸福感の醸成”に結びつくものでなければならない」と指摘している。
今年に入り,新型コロナウイルス感染症が蔓延するこの現代社会は,ウイルスという目に見えない敵により「心理的安全」が脅かされ,自粛要請による行動の自由の制限により「幸福感の醸成」が難しくなっている。
今,大切なことは,リスクをできるだけ回避し,回避できない場合には除去し,除去できなければリスクと共生し,リスクに対して挑戦する意識をもち続けることである。
多くの人はウイルスの「終息」を期待している。いわゆるゼロリスクである。
ゼロリスクとは,リスクのない状態への期待感を示す際に用いられ,リスクの主観的側面を示している。しかし今回のウイルスは,ワクチンや予防接種の開発により落ち着く状態である「収束」はあっても,頻度と強弱を変えて繰り返すため,完全になくなるという「終息」は困難であるように思える。
つまり,特定のリスクをゼロにすることは可能であっても,同時にすべてのリスクをゼロにすることは不可能だと考えられる。人は不完全で,必ず間違える生き物である以上,ゼロリスクという思想そのものがリスクといえるだろう。
「終息」のめどが立たない中,真偽不明な情報が蔓延し,冷静さを失いかけている現状においては,リスクを受容しつつ,統計と確率(数学的要素)を利用する一方,リスクは完全に数字で把握できないため,経験と勘(人的要素),理性と感性を組み合わせてリスクを予測し,ウイルスと共生するための生活の変化と適応能力こそが今後求められている。
新型コロナウイルスにより全世界で危機的状況が生じている現状において,個人,地域,組織,行政,国による一体となったリスクマネジメントが求められ,学会員として社会貢献を果たすことが価値ある使命だと考えている。
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