令和4年9月1日
給食管理における食品成分表の活用の課題
女子栄養大学教授 石田裕美この著者の書いた書籍
「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」の公表から1年半ほどが経過した。今回の改訂では,エネルギー産生栄養素である,たんぱく質,脂質,炭水化物が組成に基づく値となり,これらの値を用いて算出されたエネルギー値が収載された。組成に基づく成分値中心の八訂成分表のエネルギー値は,100g当たりで七訂成分表と比較して約91%,国民健康・栄養調査結果を再計算した結果とでは,92%程度の値となり,少なくなることもすでに報告されている。
給食施設では栄養管理を行う中で,提供する食事も喫食者も変わらないにもかかわらず,献立の栄養計算上のエネルギー値が少なくなることに対して,どのように対応すべきか悩ましい状況にある。さらに,調理による成分変化を踏まえた献立計画や表示が,栄養管理上求められている。
従来,給食施設では,献立の栄養量の計算について,調理による成分含有量の変化を考慮せずに摂取量を評価してきた。これは,成分表では調理後の成分値の収載が少ないことに加え,栄養計算に用いる食品重量を,調理に必要な食材の量に統一して用いるという,業務効率上の理由による。
しかし,成分表の調理後の食品収載数は徐々に増え,調理による成分変化を考慮して摂取量を評価することが可能になってきた。調理による成分含有量の変化を考慮するようになると,特にビタミンやミネラル類は,計算上の値は減る場合が多くなることが予想される。ここでもまた,献立の計算上,給与栄養目標量を満たさない食事,不足をきたす可能性のある食事,となることに対し,どう対応すべきか悩ましい状況がある。
計算上,食品の量を増やして帳尻をあわせたとしても,食べ残しを増やすことになるかもしれない可能性,食材料費が増える可能性に対して,本当にその必要性があるのかを,正しく評価,判断しなければならない。また,その結果を関係者や給食利用者から理解を得る説明が求められる。
いずれにしても,成分表を活用した計算値は,あくまで推計値であり,実際の食事に含まれ,かつ摂取される量と一致しているとは限らない。
成分表収載食品の栄養成分値は1食品1標準成分値であって,実際に摂取するエネルギーや栄養素量には幅がある。とはいえ,確からしい値を用いるよう,計算方法を標準化していくことは必要である。
給食施設では,業務を効率的に行うために,発注と栄養計算のための食品を同一に扱うコンピュータシステムが構築されている。今後は,発注食品が,栄養計算のための食品に自動変換,例えば,生鮮食品が調理後食品に自動変換されるような新たなプログラムの開発も必要であろう。
大量調理の工程では様々な要因で献立上の数値どおりに食品を扱うことはできない。また,調理条件によって調理による成分変化のありようも一定ではない。
食事の栄養計算のための合理的な方法を検討するためには,大量調理や新たな調理システムでの調理による成分変化の研究と給食の利用者の栄養状態の評価の両方からの研究をすすめていく必要がある。しかし,どんなに研究が発展したとしても,常に計算された値がもつ限界を理解して,給食施設での栄養管理を行っていくこともまた不可欠である。
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