令和4年9月1日
持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けての食品加工学への期待
東京家政大学教授 鍋谷浩志この著者の書いた書籍
現状における食品加工学への期待として,「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成への貢献があげられると考える。SDGsは,持続可能な世界を実現するための17のゴールから構成され,その中には,食品産業と直接的に,あるいは,間接的にかかわる課題が数多く示されている。
ご存じの通り,世界の人口は増え続けており,間もなく80億人に達しようとしている。この膨大な人口を支えていくためには,育種・栽培技術の発展による食料増産だけでは限界がある。食料資源を効率よく,有効に活用するための食品の加工・流通・利用技術の役割は,ますます大きくなるものと予測される。
このような観点からすると,まずは,有機質資源の総合的利用が重要な研究課題といえる。すなわち,農産物のすべての成分,そして,すべての部位をそれぞれの特徴に応じて効果的に活用していく食品加工技術を開発することが重要であると考える。原油価格の高騰やウクライナ情勢の影響により,世界的に食料資源の安定的な確保が危ぶまれる状況となりつつある中,その重要性はさらに高まるであろう。
近年,植物性たんぱく質の利用がにわかに脚光を浴びはじめているような感がある。植物性たんぱく質を原料としたハンバーガーなどの話題が,新聞やテレビでも頻繁にみられるようになってきた。人類の持続的な発展の実現を考えたとき,植物性たんぱく質を動物性たんぱく質に変換して利用するのではなく,植物性たんぱく質をそのまま利用するということは,食料資源の効率的利用につながる非常に有効な手段である。
そのために,植物性たんぱく質を畜肉と類似した味と食感を有する食材に加工する技術を開発するということは,とても重要な研究課題である。ただ,研究開発として取り組むべきことは,ほかにもあると考える。
我が国は,その長い歴史の中で,植物性たんぱく質を有効に活用することのできる食文化を発達させてきた。だいずに代表される植物性たんぱく質資源を,おいしい食品に効率的に加工し,利用するすべを,私たちはその食文化という形の財産としてもっている。この食文化の優位性を,栄養摂取,嗜好への影響そして生体調節機能の面から明らかにし,その成果を世界に発信していくことも,植物資源の有効活用,さらには人類の持続的発展に大きく貢献する取り組みとなるであろう。
私たちには,持続的に発展可能な世界を実現し,子どもや孫たちの世代に引き継いでいく責任がある。
このため,食品加工学の分野でも,持続的に発展可能な世界の実現という観点にもポイントを置きつつ,おいしくて安全な食品の安定供給に資する研究成果を創出し,健康で豊かな食生活の実現に貢献していっていただきたいと願う。
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