令和4年9月1日
保育分野でのソーシャルワーク
東京都市大学准教授 園田 巌この著者の書いた書籍
近年,社会環境の変化により,保育施設および保育者が果たすべき役割の範囲は拡大・深化しているとの印象がある。かなり以前の保育所では,その役割として就労支援のイメージが先行し,「働く親の味方」といった印象が強かった。
ところが,核家族の進行や地域社会の変貌など,子育て家庭を取り巻く環境の大きな変化に伴い,地域社会に内在する保育ニーズは多様化することとなった。そして,その変化に呼応するように,教育・保育の場面では,個別的かつきめ細やかな対応を求められるようになったのである。
具体的には,発達障害や医療的ケアが必要な子ども,児童虐待(チャイルドマルトリートメント),子どもの貧困,精神的な課題を抱えている保護者への対応等がある。教育・保育施設やその担い手である保育者が果たさなければならない役割は,ひと昔前とは比較にならないほど多岐にわたっているといえる。すなわち,現在の保育者には,保護者支援や子育て支援等に関して,コミュニティや集団を対象としたメゾ領域での役割を担うことが強く求められるようになったのである。
この役割を効果的に果たすためには,ソーシャルワークの視点が必要となってくる。この点について,保育所保育指針解説(厚生労働省,2018年)には,「保育所における子育て家庭への支援は,このような地域において子どもや子育て家庭に関するソーシャルワークの中核を担う機関と,必要に応じて連携をとりながら行われるものである。そのため,ソーシャルワークの基本的な姿勢や知識,技術等についても理解を深めた上で,支援を展開していくのが望ましい」とある。
ことに,児童虐待や精神的課題を抱えた保護者への対応等の困難事例にあっては,ほかの専門機関や専門職との連携が必須であり,その必然としてソーシャルワークの視点が要求される。ただし,ここでいう連携とは,単なる情報の提供や共有をさすのではなく,課題解決に向けての専門職としての関与である。
近ごろ保健医療福祉分野では,多職種連携(IPW:inter professional work)の重要性が叫ばれているが,保育分野でも同様と考えられる。
地域社会に内在する多様な保育ニーズや困難課題に対して効果的な支援を実施するためには,ソーシャルワークに関する基本的な知識や技能を理解した保育者が課題解決プロセスに参画しながら,適切に関与する必要性があるのではないだろうか。
その一方で,保育士の業務の中心は日常のケアワークであり,保護者支援や地域の子育て家庭に対する支援などは日常業務と並行しながら実施しなければならない実践もある。
したがって,保育ソーシャルワークの概念に関して,「保育施設において保育士が行う日々のケアワークの中には,ソーシャルワークの一部要素が不可分に内包されている」という整理をした方が,より実態に即していると考えられる。
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