令和5年1月1日
災害やパンデミックに備えた給食施設のBCP
お茶の水女子大学教授 須藤紀子この著者の書いた書籍
病院や高齢者施設といった給食施設は,要配慮者が集まるところであり,災害が起きたからといって給食を休止するわけにはいかない。施設には,傷病者や要介護者が入所しているため,1日3食提供できなくなることや食事内容の乏しさは,病状の悪化や災害関連死に直結する。
施設による自己完結が原則ではあるものの,実際には行政からの支援物資も届く。給食施設の備えが十分であれば,限りある支援物資が給食施設に割かれることもなくなる。高齢者施設の中には最初から福祉避難所に指定されている施設もあるが,そうでない場合も被災した施設の高齢者や在宅介護者の受け入れが行われるので,給食施設の業務継続は地域にとっても,重要な役割を果たす。
令和3年度の介護報酬改定において「感染症や災害への対応力強化」が打ち出され,すべての介護サービス事業者に対し,BCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)の策定が義務づけられた。3年間の経過措置を経て,令和5年度末までにすべての介護施設・事業者はBCPを策定する必要があり,令和6年度からは完全義務化となる。
ところが,既存のBCP関連の書籍を読んでみても,食に関する部分の内容はとても薄い。これはおそらくBCPの作成にかかわるリスク管理や危機管理の分野の専門家には,食,特に大量調理に関する知識を有する者が少ないためだと思われる。
BCPを作成しても,それを実行するのは人間である。人である以上,使命感だけで,飲まず食わず働き続けることはできない。BCPを実行可能なものにするうえで,一番重要な食や食事とセットで考えておくべき排泄に関する内容が乏しいのは見過ごしてはいけない点である。
普段,自分の食事は自分で用意できる職員も,災害時には施設に泊まり込むため自宅から持参できなくなったり,店舗の営業停止や品不足により購入できなくなったりする。したがって,災害時の給食は,平時からの入所者の分だけでなく,地域や他施設から運ばれてきた受け入れ者の分に加え,職員の分も必要となるため,食数が激増してしまう。普段は対応していないこれらの増加分も給食部門で用意することになるのである。
給食BCPは,地域継続の観点からも非常に重要な機能を担っている。サービスを停止させないことを前提に,もし止まっても一日も早く正常な状態に復旧ないし復興させるために必要なものである。
その備えのためにも,今般建帛社より『福祉施設・病院等における給食BCP導入の手引き』が近日上梓される予定だ。これを参考に給食BCPの作成に取り組んでいただければ幸いである。
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