令和6年1月1日
インクルーシブ保育の実践
田園調布学園大学教授 小山 望この著者の書いた書籍
インクルーシブ保育の実践研究をはじめて30年以上になる。保育現場に定期的に足を運び,子ども同士のかかわりや保育者と子どものかかわりの行動観察記録を行い,その結果を保育カンファレンスで報告し,保育者と意見交換してきた。どの子どもも,排除されない子ども主体の保育となるための実践研究である。
1980年代は,ノーマライゼーションの原理を背景に,障がいのある子どもを幼稚園や保育所が受け入れて統合保育を進めていた時期である。
統合保育とは,障がいのある子どもとない子どもを一緒の場で保育することである。また,障がいのない子ども集団を中心とした保育プログラムで実施されているクラス活動に,障がいのある子どもが個別支援を受けながら参加していく保育形態である。そのため,障がいのある子どもも,クラス活動に参加することを求められるが,実際には放置されたり,不本意な活動を強制されたりするという問題が生じている。障がいのある子どもや外国籍の子どもが入園したのであれば,誰もが参加できる活動や自由な遊びに保育プログラムを柔軟に変更していくべきであろう。みんなが同じ活動をしなければならない理由はない。こうした保育の根底には「みんなが同じ活動」という伝統的な保育観がある。
ユネスコとスペイン政府が開催した「特別なニーズ教育に関する世界会議」で採択された「サラマンカ声明」(1994年)は,世界各国にインクルーシブ教育のアプローチを推進するために基本的施策の転換を求めている。さらに,2006年の国連総会での「障害者権利条約」の採択が契機になり,日本でも2014年にこの条約を批准したが,いまだにインクルーシブ教育体制が不十分で浸透していない。
しかし,保育現場では徐々にインクルーシブ保育を実践する園が増えはじめている。筆者は,日本保育学会で毎年のようにインクルーシブ保育をテーマに自主シンポジウムを企画しているが,参加者の数が毎年増加し,以前より関心をもつ保育者が増えていると実感している。シンポジウムでは,集団保育プログラムを見直し,子どもの多様性を反映させ,どの子どもも参加できる遊び(コーナー遊び,異年齢クラスの遊びなど)や保育者が媒体になって子ども同士のかかわりをつくるための遊びを提案してきた。インクルーシブ保育の原点である多様な子どもの一人ひとりを大切にする保育は共生社会の実現に寄与している。障がいの有無に関係なく,子ども自身が自由に遊びや仲間を選択できる保育は,みんなで同じ活動をするという呪縛から解放された保育者自身も楽しい保育を実感できるはずである。
最後に,拙編著『だれもが大切にされるインクルーシブ保育』を建帛社から昨年8月に上梓している。インクルーシブ保育の考え方や具体的な保育方法などを参考にしていただきたい。
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