令和6年1月1日
国際的なスポーツ栄養 対象者の枠組みと現実
十文字学園女子大学准教授 村田浩子この著者の書いた書籍
スポーツをする人の目的やきっかけは様々であり,その多様性は認められるべきだが,周囲の期待を背負っている成長期の競技者では,本人の意思が必ずしも尊重されていないと危惧している。以前,ある保護者から「子どもの身体を大きくするように指導され,毎食がんばって食べさせているが,食べることが辛そうでトラウマにならないかと心配。話もしてくれなくなった」と相談を受けた。その一方で,「子どもは食欲があり,成長期だから食べさせたいが,指導者から体重が増えないようにしてほしいと指示を受けた」という相談もある。これらは成長期の競技者に対して,勝つことや競技力の向上を理由に無理な過食や食事制限の指示が行われ,子どもや保護者を疲弊させている例である。最近はスポーツ栄養の知識が広まり,このような例は減っているが,未だに遭遇する。
競技者であるか否かにかかわらず,本来,成長期の子どもたちは,将来の健康について配慮され,順調に成長できる食事や栄養の指導を受けるべきである。スポーツ関連の団体がスポーツ栄養に関する研究成果をまとめ,ガイドラインやコンセンサスを示している。スポーツ指導の現場では,多くの公認スポーツ栄養士がこれらを適切に用いて栄養サポートを行っているが,成長期の競技者に利用できるエビデンスは少ない。日本では,競技者であっても成長期のうちは食事摂取基準を参考にしたほうがよいと思うことも多い。
スポーツ栄養に関する研究成果は,エリート競技者からスポーツを楽しむ人まで含めた幅広い対象者に用いられている。
しかしながら,もととなる各々の研究は,特化した対象者に研究の目的にあわせて実施されたものである。これらは周知の事実であるが,研究成果を都合よく利用している現状があるかもしれない。
最近,スポーツ栄養における対象者の分類の枠組みが示された(MacKay AKA et al, International Journal of Sports Physiology and Performance, 2022)。対象者の分類は「Tier(レベル) 0」の座位の生活活動が多い人々や「Tier 1」のスポーツを楽しんでいる人々から,「Tier 5」のオリンピックや世界大会でのメダリストまでの6段階である。
高校の部活動レベルでは「Tier 2」に該当する。このレベルは週3回程度の練習で競技力の向上や競技大会の基準などは必要とされないと示されているが,現在の日本の中学や高校の運動部の活動状況とは必ずしも同様ではない。子どもたちの現在や将来の健康より,勝つことや記録の達成が優先されている現状があり,指導者だけでなく,成長期の競技者本人がそれを望む場合も多い。
この世界基準との隔たりの中で,日本のスポーツ栄養の専門家は,スポーツ栄養の対象者に現実的に必要とされる研究成果をどのように蓄積し用いていくかを試されているように思う。
目 次
第119号令和6年1月1日
発行一覧
- 第121号令和7年1月1日
- 第120号令和6年9月1日
- 第119号令和6年1月1日
- 第118号令和5年9月1日
- 第117号令和5年1月1日
- 第116号令和4年9月1日
- 第115号令和4年1月1日
- 第114号令和3年9月1日
さらに過去の号を見る
- 第113号令和3年1月1日
- 第112号令和2年9月1日
- 第111号令和2年1月1日
- 第110号令和元年9月1日
- 第109号平成31年1月1日
- 第108号平成30年9月1日
- 第107号平成30年1月1日
- 第106号平成29年9月1日
- 第105号平成29年1月1日
- 第104号平成28年9月1日
- 第103号平成28年1月1日
- 第102号平成27年9月1日
- 第101号平成27年1月1日
- 第100号平成26年9月1日
- 第99号平成26年1月1日
- 第98号平成25年9月1日
- 第97号平成25年1月1日
- 第96号平成24年9月1日
- 第95号平成24年1月1日
- 第94号平成23年9月1日
- 第93号平成23年1月1日
- 第92号平成22年9月1日
- 第91号平成22年1月1日
- 第91号平成21年9月1日
- 第90号平成21年1月1日
- 第89号平成20年9月1日
- 第88号平成20年1月1日