令和7年9月1日
「学びの多様化学校」って?
神戸女子大学教授 伊藤美奈子この著者の書いた書籍
ここ10年ほど不登校の増加が止まらない。特にコロナ禍以降,小学生を中心に急増傾向が顕著である。不登校の子どもたちに適した学びの場所を増やすため,文部科学省は,特別な教育課程編成ができる「不登校特例校」を2005年に創設した。ここには不登校経験がある子どもたちが在籍し,学習指導要領に縛られない教育活動が可能として注目された。しかし「不登校」という呼称に対する抵抗感等もあり,実際に「不登校特例校」に通う子どもたちや教職員から意見を募り,2023年「学びの多様化学校」という名称に変更された。
2025年4月には58校にまで増えたが,目標とされる300校にはまだ届いていない。学びの多様化学校の設置形態としては,独立した学校として設置される「学校型」(22校),一部の学級のみが指定された「分教室型」(22校),本校と分離して設置される「分校型」(5校),高等学校での「コース指定型」(9校)に分けられている。なお,括弧内は2025年度時点の設置数である。
学びの多様化学校では,不登校の子どもたちのために様々な対応がなされている。不登校である個々の実態に配慮し,子どもたちの学習状況に合わせた少人数指導や習熟度別指導,個々の実態に即した支援,学校外の学習プログラムの積極的な活用等,個々の学校ごとに指導上の工夫がなされている。
具体的には,通常の学校に比べ,1クラスあたりの児童生徒数は数人~30人未満と少人数で構成されている。また,始業時間を遅くしたり,午後からにしたりという学校もあり,登校へのハードルを下げる工夫をしている。とはいえ,学校であるため教科指導の教員数まで少ないわけではない。むしろ心理相談員やサポートスタッフ等が在籍している学校も多く,手厚い配慮やサポートを受けられるというメリットがある。さらに時間割については,柔軟に組むことが許されており,教科指導に加え,不登校の子どもたちに必要な独自のカリキュラム(学び直しや体験活動,探究の時間等)を重視する学校もある。なかには,プレイルームや相談室,保健室といった,リラックスしたりカウンセリングを受けたりすることができる部屋を学校内に設置する等,ゆるやかな居場所も用意されている。
こうした取り組みには,様々な支援が必要な子どもたちが通う小・中学校や高等学校,特別支援学校でも,参考にすべき事項が多くある。その半面で,学びの多様化学校はまだまだ数が少ない。全国すべての地域にあるわけではないため,不登校の子どもの数に比べて足りていないのが現状である。さらには,新しく学びの多様化学校が設置されても,入学希望者が殺到して,全員が入れないという課題もある。通常の受験のように,学力試験を行い点数で上位から切るという選抜方法ではなく,学びの多様化学校を本当に必要としている子どもたちを学校に結びつけるための方法や手続きが,今後ますます求められよう。
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