令和7年9月1日
VUCA時代の教員養成
宮城教育大学教授 佐藤哲也この著者の書いた書籍
VUCA時代(Volatility[変動性],Uncertainty[不確実性],Complexity[複雑性],Ambiguity[曖昧性])と称される昨今,複雑多岐で予想困難な事態に挑んでいくことが求められている。OECD(経済協力開発機構)は,OECD Education 2030 Projectを立ち上げ,よりよい未来を創造するために必要な知識,スキル,態度,価値,あるいはそれらを効果的に育成していくための教育制度,学校や授業の仕組みなどを検討し,2019年5月に「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」を示した。
ラーニング・コンパスの中心となる概念にエージェンシー(agency)がある。それは,「変化を起こすために,自分で目標を設定し,振り返り,責任を持って行動する能力」であるとされる。また,様々な課題を自分事として捉え,変化を引き起こすために自ら責任を持って社会に参画していく機動力とみなされている。エージェンシーを育むことは,就学前教育から高等教育に至るまで,重要な教育課題となっている。
第二次世界大戦後,日本の教員養成は,リベラル・アーツ(教養教育)重視から教科学問・研究アプローチへと転換してきた。現在では,個別最適な学びの保障,主体的・対話的で深い学びの推進,社会に開かれた教育課程の編成,国際化や情報化への対応等々,「令和の日本型教育」を担う人材の育成が喫緊の課題とされている。
教員自身が学習者のロールモデルになるためには,学びを起こす変革力,学びを社会に還元していく展開力,教員同士が共同する「教師エージェンシー」が求められている。また,学びの協同(働)性,つまり,他者とのかかわりや対話を通じて学びを創造していく取り組みも期待されている。
“東北における教員養成の責任を担う大学”を標榜する本学は,こうした課題に対応するための改革を進めている。ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)やカリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施方針)を踏まえつつ学生自身による「積み上げ型カリキュラム」がデザインされている。例えば,学年進行に従って学生が自らの専門性を絞り込んでいける仕組み(コース配属や卒業研究マッチング)を構築。またラーニング・コモンズでは,時間割にとらわれず,自習やグループ学習が展開している。ノートと鉛筆はパソコンやタブレットに代わり,ICT(情報通信機器)を介した情報検索により,資料収集の多角化と効率化が図られている。
また,学校参観や学校参加,教育実習等,実地体験の機会の拡充による“臨床の知”の修得と現代的教育課題への理解が促されている。修得した資質・能力・スキルを“見える化”するためには「ディプロマ・サプリメント(学位証書補足資料)」が用意され,学生における学修のPDCAサイクルの活性化を目指している。
本学をはじめ,教員養成をめぐる改革は緒に就いたばかりである。教職の高度化を図るために,旧来の内容や方法を脱構築しながら,今後も試行錯誤がなされていくことであろう。
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