令和7年9月1日
病院における学習機会の確保
育英短期大学教授 栗山宣夫この著者の書いた書籍
小児がん等で入院中の子どもの学習機会の確保の現状は,義務教育段階と高校生の間に大きな差がある。義務教育段階については,小児がん中央機関(国立がん研究センター中央病院,国立成育医療研究センター),小児がん拠点病院(全15病院)ではすべての病院に病院内学級が設置されている。比較的患者数の多い小児がん連携病院についても,複数の調査から,その設置率は70%以上であることが推察される(病院内学級未設置の場合は訪問教育)。国立成育医療研究センターはもとより,小児がん拠点病院の多くは他の難病にも対応しているので,多くの難病の子どもにとって同じような状況があるといえよう。
一方,高校生になると状況は一変する。小児がん中央機関には病院内学級高等部が設置されているが,それ以外には拠点病院をはじめほとんど設置されていない。この問題に対して,がんの子どもを守る会のワーキンググループや全国病弱教育研究会は,国の「第四期がん対策推進基本計画の策定」にあわせて,小児がん拠点病院への病院内学級高等部の設置を文部科学省および厚生労働省に要望している(2022年)。
コロナ禍以降,特に,入院中の高校生へのICT(情報通信技術)による遠隔授業を行う自治体が増えてきた。そのこと自体は好ましいことであり,Wi-Fi環境が不十分な状況等があるところは改善を望む。
しかし,病院内での対面による支援を経験してきた,病院内学級に在籍していた児童生徒の話を聞くと,「対面」と「遠隔」の両方が必要であることが強くうかがえる。ICTを活用しているからといって対面による支援は必要ないわけではない。対面では,同じような立場の入院中の子ども同士が繋がる機会を確保できることや,そのような仲間との楽しい活動経験が,学習面のみならず心理的な支援としてもとても有効である。病院内学級とはそのような役割も担っている。
今年,群馬大学医学部附属病院内に,バンド活動等もできるように防音設備が整った「思春期ルーム」が医療関係者の努力により設置された。難病と向き合っている,同じような立場の思春期の子ども同士が対面でかかわりあい,場と時間を共有することの重要性が,医療関係者からも示されている。また,学習面においては,体調や学習進度により遠隔授業だけでは十分な効果を得ることが難しいことも少なくない。
これらからも,「対面」と「遠隔」,「病院内学級」と「入院前の学校」というハイブリッドな支援体制を整え,子どもが状況に応じて選択や組み合わせができることが重要であろう。
拠点病院においては,認定条件として,厚生労働省が義務教育段階の病院内学級や家族滞在施設(ファミリーハウス)を義務付けたことでそれらの設置は進んだ。高校生についても,義務教育段階と同じように拠点病院の条件として義務付けてはどうだろうか。
また,連携病院については,制度的には病院内に高等部はないものの,実質的な充実に向けて独自の工夫をしている自治体や学校もある。それらの事例を共有していくことが解決に向けて有用ではないかと考える。
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