まえがき
1997 年(平成 9 年)の言語聴覚士法制定以来,言語聴覚士は医療・介護・福祉・教育の幅広い現場で活動し,その役割は年々拡大してきた。これまでの言語聴覚士養成課程教育においては「きこえ」「ことば」「高次脳機能」「摂食嚥下」を中心とした知識と技術の習得が重視されてきたが,超高齢社会の進展や地域包括ケアシステムの深化に伴い,単に臨床技能を修得するだけでは不十分となりつつある。言語聴覚士は多職種と協働し,組織の一員として機能することが求められ,その中で「マネジメント」の視点が不可欠であることが明らかになってきた。こうした背景から,2024 年に言語聴覚士学校養成所指定規則の一部を改正する省令が公布され,新たに「言語聴覚療法管理学」が教育内容として加えられた。
管理学は単なる組織運営の理論にとどまらず,対象児者・家族に最適な支援を届けるために,チームをまとめ,資源を調整し,安全で質の高い臨床を保証するしくみを理解し活用することを求める学問である。さらに,言語聴覚士がみずからのキャリアを築き,専門職として成長していくうえでも,セルフマネジメントやリーダーシップは大切な力となる。
本書の各章では,管理学の基礎概念に始まり,組織運営とチームマネジメント,多職種連携におけるコミュニケーション,セルフマネジメント,そして臨床業務の計画・実行・評価に至るまで,言語聴覚士が現場で直面する課題を体系的に学べるよう構成されている。学生にとっては,将来の臨床活動を見通す羅針盤となり,実務に携わる方々にとっても,日々の業務を振り返り新たな視点を得るための手がかりとなることを目指している。
言語聴覚士が管理学を学ぶ意義は明確であり,臨床技術に加えてマネジメントの力を備えることが,対象児者の生活の質を高め,組織や社会の中で確固たる役割を果たすことにつながる。本書を通じて,これからの時代を担う言語聴覚士が,専門職としての誇りをもち,チームを導き,社会に信頼される存在へと成長されることを願っている。さらに,管理学を体系的に学ぶことは,臨床の枠を超えて,教育や研究,地域社会での活動にも生かされるだろう。言語聴覚士がみずからの専門性を広げ,他職種や社会と協働して新たな価値を創出していくために,本書が一助となることを期待している。
2025 年9月
内山量史・髙野麻美・白波瀬元道