はしがき

　子どもをとりかこむ環境は複雑になっており，子どもの健康への影響は多大です。経済の発展，医学の進歩，保護者の知識の向上などにより乳児死亡率は低下し，感染症などは減少してきましたが，一方では乳幼児の死因の第一に不慮の事故があげられています。社会は少子化，高齢化の時代を迎え，地球温暖化などの自然環境の変化，科学の進歩は休みなく続いており，これらは子どもの生活環境に大きく影響し，子どもの生理機能や疾病構造にも変化をもたらしてきています。核家族化，女性の社会への進出も活発化し，家庭機能にも大きな変化が起こっており，地域社会として保育を考え，保育所などにおける集団保育も充実させていくことが必要になっています。

　このような変化の中で心身両面の健康の維持増進をどのようにはかっていくかということは保育の一つの課題です。保健という視点から保育の実際の場で行われている対応は，子どもが生活する場の環境整備，保健計画にはじまり，生活習慣の自立の援助，病気，けが，事故に対するものなど多岐にわたっています。より充実した保育の内容を繰り広げられれば必然的にこれらの対応技術も育まれてきます。そこで保育者として理解し，身につけておく必要のある対応技術をあらためてまとめてみました。

　子どもの病気，事故などは発育の過程で起こるものであり，保育者は子どもの成長・発達を十分理解し，発育の援助や病気，事故の予防にあたって欲しいと思います。適切な「応急処置」は病気やけがの回復を早めるとともに子どもの不安を和らげ，長期的なこころの健康維持に役立つはずです。日常生活の中で子どもの「異状や病気を早期に発見」するのは，子どもの一番身近なところにいる家族であり，保育者であることを忘れてはならず，そのためには子どもの病気や発生しやすい事故について十分に知っておくこと，家族との連携を十分に保つことが大切です。

　本書『シードブック 子どもの健康と安全』は，これまで多くの保育者を目指す方々にお読み頂きました『子どもの保健演習セミナー』を，2019 年度からの保育士養成課程の改定に伴い，シードブックの一冊として書名を新たに新科目名とし，内容を刷新したものです。

　2017 年に保育所保育指針が改定され，子どもの健康および安全についての視点が大きく変わってまいりました。保育者に求められる保育の知識や技術の内容も大きく変わっています。

　前著同様にご活用いただき，ご意見を頂戴できれば幸いでございます。

2019 年9 月

編者　野原八千代