食を中心に子どもの成長・発達を支える保育の実践と問題解決力を培う演習を目ざす。食育,食物アレルギー,感染症等ニーズに即して改訂。
内容紹介
まえがき
三訂にあたって
本書は2016年の改訂版発行後,5年を経て,この度三訂版を刊行する運びとなりました。この間多くの保育士養成施設の教育現場に迎えられ,多くの学生諸氏のお役に
立つことができたことは,編集者,執筆者ともども望外の喜びです。
近年の急激なグローバル化やIT関連の発展は世界的な社会の変革をもたらし,子どもの食や生活環境をも変化させ,発達や成長にも大きな影響をもたらしています。このような急激な変化に対応するため,国をあげて状況の分析やさまざまな対応策が実施されてきました。栄養面でも「日本人の食事摂取基準」が改定され,2020年版になっています。本書も最新の研究成果や国の施策を取り入れ,時の流れにあった改訂が必要となりました。
著者らが三訂版の執筆にあたった2019~2021年は,COVID-19が猛威を振るい,保育所や幼稚園,学校などの閉鎖も続き,子どもたちの生活に大きな影響を与えてきました。本書が目ざす“食を中心とした子どもの成長と発達” の実践の場が機能せず,子どもたちへの影響が危惧されます。このような現況をみても本書で議論する内容がいかに重要なものか改めて認識することができます。
今回の改訂では,簡潔な記述を踏襲すること,わかりやすい内容となるよう図表等を多用すること,食育や食物アレルギー,感染症など最近のニーズに合わせた内容にページを割くことなどを目ざしました。また演習としての授業内容であることを踏まえ,学生の問題解決力を培うことも重点項目になっています。
本書は時代の流れに沿って内容を更新し,簡素で的確な情報を提供することで,保育者としての必要にして十分な知識や技術が習得できるように企画されています。広く保育者を目ざす学生諸氏のお役に立つことを願ってやみません。
2021年3月
編 者 上原誉志夫
初版まえがき
地球上では開発途上国などで食料不足のため,多くの子どもが飢餓状態にさらされていると聞く。これに反し,先進諸国では飽食のため生活習慣病を警戒しなければならないという不均衡が生じている。日本においても,第二次世界大戦後の数年は子どもの栄養状態が大変悪い状態にあった。しかし,学校給食の普及と日本経済の復興により,食生活が改善され,エネルギーの充足とともに動物性食品の摂取が増加して,みるみるうちに国民の健康回復が図られ,子どもの体位向上をみることができた。それが最近では,朝食の欠食や食事バランスの崩れなど食生活の乱れにより,小児肥満や体力低下,さらに子どもの糖尿病までがしばしば話題にされるようになってきた。
そこで政府は,1985(昭和60)年の「食生活指針」を改定し,「健康日本21」で栄養・食生活の目標値をかかげた。さらに2005(平成17)年から ‘栄養教諭制’ を発足させ,「日本人の食事摂取基準(2005年版)」を発表し,さらに,「食育基本法」を制定した。「日本人の食事摂取基準」は2009(平成21)年,2010年版が発表された。また,具体的な正しい食生活をイメージさせる「食事バランスガイド」を発表するなど,食生活・栄養普及,特に少子化のもとでの子どもの食生活是正と栄養・健康回復にかつてない努力をしている。
したがって,保育においても,子どもの成長段階に応じた栄養・健康を確保して,正しい食事習慣を身につけ,身体と心の育成を心がけることが大切である。そこで保育士は正しい子どもの食生活と栄養の知識を身につけておかねばならない。今回改正された保育士養成カリキュラムにおいても,「子どもの食と栄養」演習2単位と定められた。改正前は「小児栄養」と称していたが,食育の重要性や,食事アレルギー・食中毒などの食事事故が発生することから,「子どもの食と栄養」に改称されたのであろう。なお,「小児」から「子ども」への変更は,広辞苑(岩波書店)によっても,ほぼ同義語であるが,最近の多用,慣用から「子ども」としたのであろう。
本書は,前身の『あたらしい小児栄養』(2007年初版発行)を改訂し『セミナー子どもの食と栄養』と命名し,新しいカリキュラムを踏まえ最近の子どもの食や栄養を取り込み,2年制のみか4年制大学の保育士養成課程の教育にも適用できるよう書かれた教科書である。したがって,単なる知識のみならず,演習として展開できるよう工夫したものである。なお,執筆者はいずれも子どもの食事や栄養学の研究・教育に熟練した教員である。一度お読みいただき,納得していただければ幸いである。
2011年 3 月
編 者 林 淳三
目 次
第1章 世界における子どもの栄養問題
1 日本の子どもの食生活の現状
2 世界の栄養問題と子どもの栄養不良の現状
3 子どもの栄養不足への国際的な取り組み
第2章 子どもにとって食・栄養がなぜ大切か
1 子どもは発育期にある
2 栄養は発育に大きく関与する
3 成長の評価
4 栄養状態の評価(栄養アセスメント)
5 食の自立に向けて食習慣を形成する
第3章 栄養の基礎知識と消化・吸収にかかわる器官とその発達
1 栄養の基礎知識
2 栄養にかかわる器官とその発達
第4章 栄養バランスのとれた食事とは
1 日本人の食事摂取基準(2020年版)と小児期の特徴
2 子どもの食事と栄養バランス
第5章 胎児期の栄養と母体(妊娠・授乳期)の栄養と特徴
1 胎児期の栄養
2 妊娠期の代謝
3 妊娠期の栄養障害・疾病と胎児への影響
4 授乳期の栄養
第6章 乳児期の栄養・食生活の特徴
1 母乳栄養
2 人工乳栄養,人工栄養
3 混合栄養
4 乳児の食育の考え方
5 離乳食
6 乳児期の栄養障害・食生活上の問題と対応
7 乳児期からの口腔ケア
8 離乳期の保育の考え方
第7章 幼児期の栄養・食生活の特徴
1 成長と発達
2 食習慣の形成
3 食生活上の問題
4 幼児期の食事
5 幼児期の食育の実際
6 幼児期に伝えたいこと
第8章 学童期・思春期の栄養・食生活の特徴
1 発育の特徴
2 栄養の特徴
3 心身の発育・健康と食のかかわり
4 食生活上の問題点と対応
5 生涯の健康と学童期・思春期の食とのかかわり―生活習慣病の予防に向けて
第9章 食育の基本
1 食育における養護と教育
2 食育の内容と計画・評価
3 食育のための環境
4 地域の関係機関・職員間の連携
5 食生活の指導
6 食を通した保護者支援
第10章 子どもの食事と栄養
1 家庭における食事と栄養
2 児童福祉施設における食事と栄養
第11章 子どもの疾患と栄養
1 子どもの疾患の特徴
2 出生時の問題と新生児マススクリーニング検査
3 乳幼児期の問題
4 子どもの罹患時によくみられる症状(非特異的症状)
5 子どもに多くみられる感染症
6 子どもに多くみられる疾患
7 生活習慣病。アレルギー,貧血
8 障害のある子どもの食事と栄養
書籍に関する
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