建帛社だより「土筆」

平成20年9月1日

言語聴覚士法制定十年を迎えて

埼玉県総合リハビリテーションセンター          言語聴覚科科長  清水 充子この著者の書いた書籍

 本の「言語聴覚士法」が制定され,早いもので10年が経過し,本年春に10回目の国家試験が行われ,累計で14,352人の言語聴覚士が誕生している。法制定前には全国の言語聴覚士の人数であった数字が,今では1回の国家試験の合格者にほぼ匹敵する数となり,資格制度制定に熱い思いを寄せていた身としては隔世の感がある。



 格制度が制度化され,教育カリキュラムが明確になり,多くの教科書が著され,専門学校,大学を含め61校が言語聴覚士の養成を進める状況となった。まだまだ需要に応えきれてはいないが,養成される人数が増えることに加え,さらに専門性を発揮できるよう努めていきたいところである。



 語聴覚士は,脳卒中などの後天的な疾病や頭部外傷,耳鼻咽喉科領域の手術後の後遺症や口蓋裂など先天的な形態や発達の問題などによって生じる,言語や聴覚,発声発語や嚥下の滞りに対するリハビリテーションあるいはハビリテーションを行う。対象の年齢幅は,新生児から超高齢者まで,あるいはまれな対象ではあるが,口蓋裂児の出生前診断から両親への指導を行うことなどを含めると,すべての年齢を対象とする可能性がある。



 場は病院や各施設,学校などで,疾患等をもった本人への訓練的な働きかけばかりでなく,家族や関連職種に対して症状理解や協力を進め,症状をもつ本人のQOLの向上を目指すことまでを専門領域としている。また,それぞれの対象者ごとの症状に合わせたアプローチを行うのは当然であるが,本人の興味対象や個性をも考慮して訓練の内容を考え,改善や環境に合わせた方法を選択していくなど,大変創造的で魅力のある仕事である。



 て,日本では,リハビリテーションの専門職である理学療法士,作業療法士とともに医療領域や学校教育の中で携わってきた歴史をもつ言語聴覚士であるが,社会的な知名度は欧米各国に比して格段に低い。その背景には資格制度の制定の遅れとそれに伴う診療報酬の問題,充足率の低さなどが関連していると思われるが,制度が制定され多くの言語聴覚士が養成されるようになった現在,より多くの専門性を発揮する人材の養成と活躍に期待がかかる。



 少飛躍するかもしれないが,この領域の働きが世の中で広く知られていくということは,障害のある人々のその障害の理解と社会的支援の向上にもつながることと推察される。身体の障害に比してことばの障害は,外見からその状態を察することが難しいため,適切な対応に苦慮されることが多く,また困難を表現すること自体に障害があるため,疎通困難から二次的な問題を生じることもある。一つひとつの症状の理解や対応についてのサポートが進むことにより,症状や関係をさらに改善させることができると思われる。また,そのような症状の理解促進により,突然障害を担うことになった人々自身や家族の受容を少しでもスムーズにしていくことができるのではないかと思われる。



 連する領域の方々には,言語聴覚士および言語聴覚領域へのご理解と今後へのご期待をいただきたく,また,多くの熱意ある若者にこの職を志してほしいと願っている。

目 次

第89号平成20年9月1日