平成20年9月1日
穀物急騰とアメリカの農業保護
日本フードスペシャリスト協会専務理事 土屋 正この著者の書いた書籍
私たちは学校で,「アメリカは世界一の農業国である」,「アメリカは自由貿易を重視している」,と教わった。教育の効果は大きく,自動車や鉄鋼では保護主義があるかもしれないが,アメリカ農業は自由貿易の牙城と思い込んでいる。
しかしこれは神話であるにすぎない。アメリカは世界に冠たる農業保護国である。アメリカの畑作農業の保護の中心はマーケティングローンにある。
マーケティングローンは,農産物を担保にした低利融資である。融資額は,例えば小麦1ブッシェル当たり5ドルという形で法定されている。市価が10ドルのときに販売すれば借りた5ドルに利子をつけて返済するが,市価が1ドルのときに売れば1ドルだけ返せばよいのである。利息も不要だ。
マーケティングローンの下では,マーケットがだぶついていれば市況は底なしに低下する。底なしの市価で調達された輸出農産物の国際競争力は抜群である。また,国内の農家手取り保障水準がいくら高くても,それにつられて輸入圧力が高まることはない。マーケティングローンは,きわめて強力な輸出補助金,輸入障壁として機能する。
ただ,このような強力な保護措置の運営には多額の財政資金を要す。国際交渉のポジションも弱くなる。穀物市況を底上げすることができればそれに越したことはない。
アメリカは中東へのエネルギー依存を国家安全保障上の重大問題ととらえ,バイオエネルギー生産拡大に踏み切ったが,その背景には,穀物市況の底上げを図ろうとする意図もあったと思う。
サブプライムローンの破たんに伴う巨額の投機資金の流入により,穀物市況は底上げどころか暴騰状況になり,世界中が悲鳴を上げている。ただ,需給緩和が見込まれるマーケットに投機資金は集まらない。投機資金の流れ込みは,途上国における人口増加,中国・インドなど新興国の経済発展,そしてバイオ燃料製造に伴う需要増加に生産が追いつけそうにないという見方が強まっていることを示している。世界各国が食料増産に向けともに努力することが求められる時代に入りつつあるのだ。
輸入障壁ゼロが貿易立国日本のあるべき姿,自由貿易こそが食料安全保障の途,日本農業の足腰を強くするには国際競争にさらすのが早道,といわれると首をかしげざるを得ない。少なくとも次のことは念頭に置いていただきたいと思う。
●アメリカ・EUは世界に冠たる農業保護国であり輸出国である。極論のアメリカと現実論のEUのタッグが成立しているのがWTOである。
●食料の世界では輸出規制は当たり前。食料確保を旗印にした港湾ストを排除できる政権はない。
目 次
第89号平成20年9月1日
発行一覧
- 第121号令和7年1月1日
- 第120号令和6年9月1日
- 第119号令和6年1月1日
- 第118号令和5年9月1日
- 第117号令和5年1月1日
- 第116号令和4年9月1日
- 第115号令和4年1月1日
- 第114号令和3年9月1日
さらに過去の号を見る
- 第113号令和3年1月1日
- 第112号令和2年9月1日
- 第111号令和2年1月1日
- 第110号令和元年9月1日
- 第109号平成31年1月1日
- 第108号平成30年9月1日
- 第107号平成30年1月1日
- 第106号平成29年9月1日
- 第105号平成29年1月1日
- 第104号平成28年9月1日
- 第103号平成28年1月1日
- 第102号平成27年9月1日
- 第101号平成27年1月1日
- 第100号平成26年9月1日
- 第99号平成26年1月1日
- 第98号平成25年9月1日
- 第97号平成25年1月1日
- 第96号平成24年9月1日
- 第95号平成24年1月1日
- 第94号平成23年9月1日
- 第93号平成23年1月1日
- 第92号平成22年9月1日
- 第91号平成22年1月1日
- 第91号平成21年9月1日
- 第90号平成21年1月1日
- 第89号平成20年9月1日
- 第88号平成20年1月1日