平成21年1月1日
介護福祉士養成 新カリキュラムに寄せる期待と危惧
専門学校日本福祉学院副学院長 山谷 里希子この著者の書いた書籍
年が明け,いよいよこの4月から新カリキュラムでの養成が始まる。介護という職業に対する逆風が吹き荒れる中での大きな変革に,不安とやりきれなさを感じながらも新しい内容に沿って骨組みを立て,昨年9月末までに申請を終了し,今頃は各校ともに組み立てた内容に血を通わせる作業に追われていると思う。4月に走り出す前に新カリキュラムへの期待と危惧について考えてみたい。
まず期待である。新カリキュラムの背景として,平成19年12月に改正された「社会福祉士及び介護福祉士法」の中で,介護業務が入浴・排せつ・食事その他の介護と介護に関する指導から,心身の状況に応じた介護と介護に関する指導へと内容の広がりと奥行きが明記された。また,連携する職種も医療関係者に限定されたものから福祉サービスを提供する者,保健医療サービスを提供する者その他の関係者,と連携の対象が拡大された。さらに,誠実義務と資質向上の責務が追加され,今,現場の中で尊敬される仕事として実践されている内容が法律として示されたことは評価される。これらが関係者に強く認識されるよう,養成校としての責任と期待を感ずる。
新カリキュラムの科目は「介護」を中心に「人間と社会」「こころとからだのしくみ」の三領域で構成されている。ポイントを以下に示す。
① すべて「介護に必要な」という観点から構成されている。
② 介護の対象者を個別の心と身体を持った生活する人,尊厳を持つ個人としてとらえている。
③ 介護実践と教育の連携を推進する観点から介護現場の職員が非常勤教員として養成教育に参加できる。
④ 介護実習をⅠとⅡに分け,介護を必要としながら生活する利用者の生活を広く学習できる内容に拡大された。
⑤ 提供される介護にはすべて根拠があり,その思考過程の学習を教育の中に大きく位置づけたことがポイントであり,
介護という職業への希望の灯となっている。
この度の改正では,介護教育を任う中心に介護福祉士が大きく位置づけられた。このことにより他職種からでは伝えきれない「介護福祉士としての誇り」が直接的に学生に伝わることの期待は大きい。「誇り」は人に喜びと責任をもたらし,未来を切り開く原動力となる。
次に危惧であるが,国家試験を受けるルートの多様性についてである。養成校に課せられた新カリキュラムに寄せられる社会の期待は,すべての介護業務に当たる者に向けられる期待であり,質の保障を約束できるものでなければならない。介護福祉士の基盤をつくる基礎教育は重要であり,国家試験を受ける者すべてに介護業務に就く前に養成の到達目標11項目が課せられなければ,質の保障は難しい。介護技術講習会を受講する現場の方々全員が発する「目から鱗」「これで納得できた」「今まで何の根拠も持たずに実践していた」等などの言葉がその必要性を如実に物語っている。さらに,介護には生活経験や人間性も重要であり,専門教育は義務教育化している高校教育のうえに位置づけられる必要を感ずる。
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