平成21年1月1日
安心感と安全感を確保する学校の危機管理
筑波大学大学院教授 石隈 利紀この著者の書いた書籍
児童生徒の危機および学校の危機の管理は,学校にとって大きな課題である。例えば児童生徒の「いじめ」が要因と思われる自殺が起こったとき,学校は混乱し児童生徒の学校生活は正常でなくなる。教師は,このような危機にどう対応するかについて学習する必要があり,学校は危機に対応するシステムを整備することが求められる。
「危機」とは,自分が通常用いている問題解決の資源では,回避も解決もできない重要な問題を生み出している危険な状況にあって,「心理的均衡を失っている状況」のことである。その文字が示すとおり,自らの生命や人生を脅かす危険な状況であると同時に,成長する機会でもある。
学校の危機は,児童生徒・教職員・保護者を巻き込む,突発的で衝撃的な出来事に遭遇することにより,学校が混乱し,児童生徒の学校生活が正常に保てない状態に陥ることと言える。学校の危機をもたらす出来事には,①児童生徒の自殺や殺傷事件,②授業や行事,また学外における事件・事故による児童生徒の死傷,③教師による不祥事の発覚や教職員の突然の死などが含まれる。そして学校の危機における児童生徒や教職員の心理的反応の特徴は喪失感と強い恐怖感であり,それに伴う自責感と外部からの責任追及である。
学校における危機への対応の目的は,児童生徒・教職員・保護者が安心感と安全感を確保し,自己コントロール感を取り戻し,日常の学校生活が戻ることである。対応の柱は,「危機対応チーム」の立ち上げとコーディネーションである。
危機対応チームは,代表者と広報担当者(校長),学校外との連絡・調整役(副校長・教頭が指導主事と共同で),学校内の危機対応のコーディネーター(生徒指導主事など),個別の対応担当者(養護教諭,スクールカウンセラーなど)などから構成される。そして対応の焦点としては,①事件・事故の状況についての情報の伝達と共有,②児童生徒・教職員・保護者に対しての,危機への対応に関する情報の提供,③児童生徒・教職員・保護者の心理的ケアがあげられる。
危機対応の初動がうまくいくことにより,児童生徒・教職員・保護者などの心理的均衡が早く回復し,学校の教育機能が日常に戻ることができる。そして,関係者の危機における心理的ストレスがPTSD(心的外傷後ストレス障害)になるのを防ぐことができる。
教職員が学校の危機について研修を受け,危機対応チームが事前に整備されていることが望ましい。しかし,危機発生直後に現場や校内にいたメンバーが集まり,短時間で役割分担を決めることもある。東京消防庁高野甲子雄氏(ホテルニュージャパン火災時の特別救助隊隊長)によれば,危機におけるチームワークは,①チームで動けるような日頃からの訓練と,②リーダーによる役割分担が鍵を握る。
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