平成21年1月1日
特別支援保育に向けて
神戸親和女子大学教授 親和福祉の会理事長 安藤 忠この著者の書いた書籍
今年の保育界は,新保育所保育指針の施行を迎えてどのように展開していくのだろうか。私もまた,不安と期待の相反する受け止め方をしているが,どちらかといえば,期待のほうが大きい。不安の主なものは,以後数年にわたると思われる世界的経済不安定をベースにして,これまで進行してきた少子化や,家庭機能の縮小が一層加速することは必至であり,さらに入所児にも特別の支援が必要な,発達障害予備軍とも言われる子どもが多くなることが予想されるため,保育所は,入所児の確保と家庭機能の代替強化を迫られることになり,有能な保育士の確保・養成と適正配置に苦心するだろうという運営上の問題である。
期待は,指針の大幅な改定に伴う,新たな「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」策定により,科学化され,理論化され,技術化された保育へ向けての取り組みが活性化され,保育の質の向上と平均化が促進できそうなことである。
指針では,保育士の質の改善には,研修の充実・施設長の役割強化・養成のあり方の見直しなどをあげているが,保育士個人の自覚と論理性も問われている。
かねてより保育士などの福祉の専門家には,温かい心と冷静な頭脳と優れた技術が欠かせないと言われてきたが,それは,保育士チームが,常に保育上の問題を,分析・評価したうえで計画を立て,実行し,さらにその結果を再評価し,保育内容・方法・技術にフィードバックするという繰り返しの中から生まれるものだと思う。
このような内外の状況をみて,私たちの研究グループは『特別支援保育に向けて―社会性を育む保育 その評価と実践―』(建帛社)という研究書と実践書をかねた本を出版した。
この本は,最近学校で激増した,そのために従来の特殊教育体制を特別支援教育に改める原因となった,知的障害の目立たない,アスペルガー症候群,高機能自閉症,学習障害,注意欠陥/多動性障害などの,いわゆる軽度発達障害児に対する発達支援の第一歩として,保育所としての効果的対応を援助することを目的としたもので,多くの現場の保育士さんのお知恵を拝借した。なお,この書で用いた「特別支援保育」の意味は,そのような子どもたちに共通する,社会性の発達の遅れに由来するさまざまな困難性に,できるだけ早く気づき,適切かつ効果的な保育的環境を整備する必要性を強調したものである。
私たちは,社会性の発達とは,その人が利用している生活環境とのつき合い方の合理化の過程であると考えている。保育所での環境として,母子分離の過程など十項目を取り上げ,既存の発達理論と照合しつつ,子どもたちの発達過程を調査しそれをベースとして,独自の観察表をつくり,レーダーチャートに移してそのパターンから判断し,援助の手立てを考えることにしている。
もっとも,保育的援助の内容は,教育ならびに養護にと多岐にわたるのだが,あえてこれらの障害の中核である社会性の発達障害に焦点を当てた対応を考えようという問題提起をしたつもりである。ご意見をお待ちする次第である。
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