平成21年1月1日
スウェーデンでの見聞から
佛教大学教授 阿部 祥子この著者の書いた書籍
これまで一人で,あるいは恩師などさまざまな人たちと,スウェーデンを何回か訪れている。初めての渡瑞時に,連絡交渉や通訳など万般の世話をいただいたFさんに「研究する前に,無心になってスウェーデンを体と心で感じることからはじめてほしい」と言われた。外国を研究するに当たって,そこに住み暮らす人々に対する最低限の礼節,研究上の心構えとして,大切にしてきた言である。
2008年は焦点を「子ども」に置き,2回渡瑞した。以下に,「平等と連帯」を重んじる福祉先進国であるスウェーデンの,人を育てるあり方や「自立」の仕組みなど,日本の現状と照らし合わせつつ考えさせられていることをいくつか述べてみたい。
一つは,保育園(ソルナ市)でのこと。かなりの雨の中,外遊びをしている園児たち。スウェーデンには「悪天候という天候はない」,そして「汚い子どもは元気になる」という諺があり,どんな日でも朝8時には園庭に出て午前中は外遊び。どろんこの姿に,親は「今日は楽しかったのね」と喜ぶとのこと。また,厳しい自然環境で暮らしていくために必要な心身づくりは,昼寝を屋外の乳母車でする乳幼児期から始まっていた。
訪れたときは,ちょうど親もいっしょに登園する「ならし保育」の最中であった。それは親のためにあるとのこと。園でどのような様子なのかを,子どもといっしょに遊ぶことで体験し,自宅と園との間の混乱を避けるためであるという。育児休暇の480日(父と母が最低60日取得)に加え,親に対して,12歳未満児の病気時などに使う120日の休暇保障があるために可能なことではある。
二つ目は,行政の要請に従って12歳までの子どもを抱える家族の緊急対応先を決める公的機関(ストックホルム市)でのこと。大人側によくしようとする意欲や自覚がない場合は受け付けないが,サポート先を決める標準判定は,「家族と環境(家族背景・住居・仕事・地域資源など)」を基礎に,「子どもの心理的なニーズ(情緒反応や心理的な問題など)」と「両親としての能力」の3つの柱でなされる。
後者は,起床や朝食など基本的な生活面,おむつ換えや入浴などの衛生面,危険物の扱い(例えばハサミなど)の安全面に対する親の取り組み具合から,子どもにとっての親を判定する指標である。
三つ目は,親や本人の事情で家に住むことができない15歳~20歳の女子青少年保護施設(別所に男子用・ストックホルム市)でのこと。行政の決定によって入居し,半年から長くて九か月間住む。以前は個室でダイニングキッチンやリビングを共有していたが,ここには25㎡~40㎡の共同生活用住戸六戸がある。気持ちよく美しいインテリアの居室に,コンピュータとテレビ,ソファーに食卓が備えられ,家族用にもなりそうな台所(電子レンジや冷蔵庫などを完備)にシャワールームのある住戸である。個室でないのは,生活リズムの確保や生活全般の指導・訓練を一人ひとりに合わせて行い,社会の構成員となるのに必要な「自立」を獲得するためである。ここは,治療する家であり,学問的には施設であるが,めざすのはホーム「家」とのこと。
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