平成30年9月1日
日本の家政学の七十年と家政学原論
(一社)日本家政学会家政学原論部会部会長 熊本大学教授 八幡(谷口)彩子この著者の書いた書籍
2018年,日本家政学会は設立70周年,家政学原論部会は50周年を迎えた。本稿では,戦後における日本の家政学と家政学原論のかかわりについて述べてみたいと思う。
1947年の「大学基準」ならびに「家政学部設置基準」の制定において,家政学は大学教育の一部門として制度化された。このわが国初の「家政学部設置基準」において,「家政学の全貌を把握せしむる事を目的」とする「一般家政学」科目の一つとして「家政学原論」は位置づけられ,誕生した。戦後における家政学部の制度化と家政学原論の誕生はほぼ同時であり,家政学の哲学・バックボーンとしての役割が家政学原論には期待されたと言えるだろう。しかし,内容に先んじて名称から誕生した家政学原論をどのようなものにするかの決定には多大な困難があった。このような中で,昭和20年代に刊行された中原賢次氏,松平友子氏の『家政学原論』は「家政学原論」のモデルとなった。
1949年に設立された日本家政学会が,シンポジウムのテーマとして「家政学原論」を取り上げたのは1963年のことである。このときの議論は,『家庭科教育』誌上に場を移し,家政学の名称をめぐる論争を引き起こした(1960's家政学・生活科学論争)。家政学の本質,定義,体系等に関する討論会を経て,日本家政学会の分科会として家政学原論研究会(現家政学原論部会)が発足したのは1968年のことである。1970年,国際家政学会から家政学の意義(定義)に関するアンケートが寄せられると,家政学原論研究会はInformation Sheet(案)の原案作成にかかわり,家政学の学問論の構築に一定の役割を果たしたと考える。
日本家政学会の家政学将来構想特別委員会報告書『家政学将来構想1984』は学会の総意による家政学の定義を示し,学問論の確立に貢献した。一方,同報告書は,家族や家庭生活,家政を家政学の認識対象として収れんさせてきた家政学原論に対し,人間生活という幅広く一般化した対象認識や「総合科学」という家政学の性格を示すとともに,生活に根ざす学問のもつ価値の多様性を正しく認識させる教育を「家政学原論」に求めた。
1994年,アメリカ家政学会の名称変更を契機に,家政学原論部会は,家政学の学問としてのあり方よりも専門としてのあり方(professional development)を重視してきた。2018年,日本家政学会は学会初の認定専門資格「家庭生活アドバイザー」すなわち「家政学の知識・技能を活用して,人々が生活環境を整え,自ら生活課題を乗り越える力を高めるのを支援し,個人・家族・コミュニティのウェルビーイングの向上のために活動する専門家」の制度化に踏み切った。日本家政学会は「専門(職)」として社会貢献を目指す方向に舵を切ったと言えるだろう。学会認定資格「家庭生活アドバイザー」がその役割と使命を十分発揮できるよう,家政学原論教育の充実に取り組んでいきたいと思っている。
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