建帛社だより「土筆」

令和2年1月1日

全国栄養士養成施設協会に求められる使命

一般社団法人全国栄養士養成施設協会 会長 名古屋文理大学理事長  滝川嘉彦この著者の書いた書籍

 国栄養士養成施設協会は,昭和33年に任意団体として発足し,昭和40年に厚生労働省(当時は厚生省)の設立認可を受け社団法人に,平成25年に一般社団法人となった団体です。栄養士・管理栄養士養成施設の内容充実と教育の振興をはかるとともに,国民栄養の確保改善に関する調査研究,栄養改善思想の普及,国民の体位や健康の保持増進,公衆衛生の向上等に努めることで国民の福祉増進に寄与することを目的としています。現在の会員校数は270校であり,栄養士および管理栄養士養成施設数全体の98.9%,また,学生数は22,161名と全体の99.6%です(平成31年4月時点)。

 栄養士は昭和22年制定の「栄養士法」を根拠にしています。この法律は元来「栄養の学術」の実践と「保健栄養」および「療病栄養」を目指して構想されましたが,諸要因により「保健」主軸から「保健」「医療」の両軸へ,さらに「保健医療」の統合軸へと変化を遂げ,今日に至っています(日本栄養士会調べ)。直近の変化は平成12年の法改正であり,管理栄養士は保健医療の専門職に向けて半歩前進しましたが,その基礎資格である栄養士は60年以上形を変えていません。医療計画が5年ごとに見直されることを考えると,栄養士は制度のずれが生じている可能性があります。

 昨今は,医療系の資格の養成施設の学生数が減少傾向ですが,かつてのように行政が資格を守るための議論を受け入れることは少なくなり,逆に成果を出せない場合は淘汰される可能性さえ高まっています。もし制度にずれがあるのなら,過去の成功にとらわれず,解消すべきだと思います。

 私の使命は,我々を取り巻く状況を栄養士・管理栄養士の養成施設長に伝え,各養成施設が自ら教育研究の質を高め,その成果で職域を確保・拡大できるよう支援し,必要に応じて法令の改正につなげること。また,そうした歩みを力強いものにするために職能団体や関連学会との連携を密にすることだと考えています。

 一方で,大学理事長として大学を運営している立場からみると,社会が抱える課題が,多様化・複雑化・スピード化するほどに既存の専門分野や学部・学科構成では課題を解決しにくくなっていると感じています。そこで,複数の専門領域との連携を深めたり学部・学科を改組転換したりしますが,なかなかよい結果には至りません。

 例えば,未知の専門課題に迅速に対応するため,大学の判断で他の専門分野や資格養成を,フレキシブルに組み込める幅のある制度にしてはどうかと考えたりします。しかし,現在は資格の管理が優先されてしまい科目の変更には時間がかかってしまいます。

 それでは,栄養士・管理栄養士の未知の専門課題とはどのようなものであるかを想像してみましょう。保健医療分野におけるビッグデータ利用が進んでいることを考えると,一次的な診断がAI(人工知能)に託される一方で,医療チームでは議論の質が問われるようになります。そうすると,管理栄養士自身による臨床研究や分析力が求められ,診断の先鋭化に併せて患者の行動を変容させるためのコミュニケーション力が求められると思います。さらに,医療が病院から在宅に移行することで,栄養士には栄養指導に沿った調理や食育を在宅で実際にやってみせる技能が問われるのではないでしょうか。また,多種多様な研究論文を読みこなし,新しい知見をスピーディーにディープラーニングに指示する作業も管理栄養士の役割となるでしょう。そこでは透析や投薬とともに,行動変容の価値が算出されるかもしれません。

 いずれも,複数の分野をまたぐ課題であり準備に時間を要するものばかりです。学会や行政との連携を深め,出来る限り早く中長期の目標を立て,積極的な養成施設経営への転換に活かしたいと考えています。

 今年は東京で「成長のための栄養サミット2020(仮称)」が予定されています。私たちは,世界の叡智が結集するチャンスを生かして未来に向けて大きく羽ばたきたいと思います。

目 次

第111号令和2年1月1日

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