建帛社だより「土筆」

令和2年1月1日

電子レンジの有効活用と調理への利用

元文教大学 教授  肥後温子この著者の書いた書籍

 たちが毎日のように利用している電子レンジ。その加熱法である「電子レンジ加熱法」は,スイッチをONにした瞬間,マイクロ波が食品内部にまで浸透し,自己発熱するため,外部の熱を伝導させる「熱伝導加熱法」に比べてスピード加熱が可能となりました。加熱時間が短いため,光熱費が3分の1以下になることも少なくありません。電子レンジ加熱は,省エネになること,水を使わず蒸し茹でするため,ビタミンやミネラルの残存率が高いことも,広く知られるようになりました。

 ころで,パンや中華まんじゅうなどのデンプン性食品を電子レンジ加熱すると,加熱直後には蒸したように軟らかく,放置後急速に硬くなる現象を経験したことはありませんか。物性変化の起きる原因を調べたところ,低水分領域にもかかわらず自由水が出現して糊化が促進されること,水分蒸発量が増えることがわかりました。

 子レンジでカップうどんを作ると,もちもちつるつる食感になり,電子レンジを併用すると,フライパンのみで作ったじゃがいも餅よりもちもち食感が強くなるのも,糊化が促進されるためと考えられます。マイクロ波加熱特有のスピード加熱特性や内部加熱特性は,食品を硬化させたり,卵を破裂させる原因ともなりますが,膨化乾燥加工や包材ごとの加熱殺菌のような画期的な加工手段を生み出しました。

 電子レンジ加熱法は,再加熱,解凍,下ごしらえ,部分調理のほか,バターなどの溶解殺菌や日持ち延長,乾燥,発酵促進など,様々な用途に活用されています。熱伝導加熱法で,煮る・焼く・揚げる調理をするとき,火の通りにくい野菜やいも類を電子レンジで下ごしらえすれば手軽に野菜不足を補うつけ合わせができたり,驚くほど短時間で菓子類を作ることができます。ガスコンロがふさがっていても作業ができ,洗い物も減るので時短効果が高く,素材のもち味が残るためおいしくなることが少なくありません。

 子レンジを活用して調理実習に盛りだくさんの内容を組み込み,生徒を満足させることができた」や,「電子レンジで生地の発酵を促進することによって,パンやピザを作ることができた」という報告があります。

 切りにしたかぼちゃやさつまいもを電子レンジで下茹でしてから天ぷらにすると,生からよりも,揚げ時間の短縮,吸油率の減少になる上,衣がパリッとして具が軟らかく驚くほどおいしかったと言う学生が多くみられました。また,電子レンジで加熱した玉ねぎは,フライパンで炒めた場合と比べて,炒める手間が省け,油を使わずヘルシーなだけでなく,甘みが強く,旨み・コクがあるため,料理に使いたいと思う学生がたいへん多かった経験をしています。

 調理実習時間が減る学校が多い中,時短効果が高く,生活習慣病の予防や環境保全に役立つ電子レンジを授業に活かして欲しいと思い,この度『電子レンジを活用した調理』を建帛社より村上祥子先生と共著で上梓しました。ご一読願えれば幸いです。


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第111号令和2年1月1日

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