令和2年1月1日
「出来事」から思考することの大切さ
大妻女子大学 教授 岡 健この著者の書いた書籍
2017年のユーキャン新語・流行語大賞を受賞した「インスタ映え」。
「写真共有SNS『インスタグラム(Instagram)』に写真をアップロードし,公開した場合に,ひときわ見栄え良くステキに見える(映える),という意味で用いられる表現。インスタグラムへの投稿を念頭において『写真うつりが良い』と述べる言い方」と示されいる(実用日本語表現辞典)。
もっとも,最先端にいる若者というイメージの強いモデルの藤田ニコルが,2019年4月20日放送のテレビ番組『メレンゲの気持ち』に出演した際に,「大人はそういう言葉新鮮で好きかもしれないですけど,私にはもう…古すぎてやめてほしい」と「インスタ映え」という言葉に対する不満をあらわにしたそうだ。となると,この言葉自体は今や「古い」言葉になっているのかもしれない。
ところで,ここでこの言葉を示したのは「映え」という言葉に示される,あるいは「投稿を念頭において」と表された,いわゆる「逆算思考」に関して思うところがあるからに他ならない。
現在,私は保育者養成女子大学に所属している。学生諸氏と接していて,彼女たちが極めて真面目で,また素直に学ぶ学生であることを実感する。ただ一方で,その姿に危うさを感じてしまうのもまた事実である。それは,彼女たちが(おそらく無意識なのであろうが)常に結果を思い描き,予定調和的に「コト」をなそうとしている姿と微妙に重なってしまうからである。
大人(教員)の求める答えを察し,そのことをそつなく振舞い,こなす。疑うこともなく,こだわり立ち止まることもなく,極めて省エネに無駄をせずに取り組んでみせる。確かに,こうした求めに応じてそれを察し動けること自体は,紛れもなく1つの「力」として捉えられよう。また,そう考えれば「あつかいやすく」「従順な」その姿に何の不満を抱くのだろうか。かえって贅沢で不謹慎なことなのかもしれない。でも…。
乳幼児の生活をつくる保育者にとって,子どもの生活を形づくる責任(逆算思考の必要性)は,子どもが幼ければ幼いほど大人の役割である。ただ,一方で子どもが学び・育つことの基本には,子どもが心動かすことに即応して心を動かすことや,予想しない子どもの動きに関心をもって寄り添い,そのことの意味を共にしてくれる大人の存在が不可欠である。
子どもの予期せぬ思いつきに対し,出来ない理由を考えるのではなく「どうやったら出来るのか」を一緒に考えられるような保育者が,今という時代だからこそ求められる。一見無駄にみえても,思いもよらない戸惑いの出来事であっても,またそれが思わず眉をひそめたくなるような,そのような場面においてでさえ,その出来事の意味を,その時,その場所にいて味わい,そこからその子どもにとって必要なことを,必要なだけかかわる。そのような保育者へと育てる責務を通感している。
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