建帛社だより「土筆」

令和3年9月1日

教育としての体育

日本体育大学教授 白旗和也この著者の書いた書籍

 皆さんは,学校で体育の授業を受けてきたはずです。では,どのような感想をお持ちでしょうか。次の4択では,どれに当てはまります
 
 ①運動は得意だし,体育は好きである
 ②運動は得意ではないが,体育は好きである
 ③運動は得意ではないし,体育は好きではない
 ④運動は得意だが,体育は好きではない

 講演会や研修会などで成人の参加者に聞くと,例外なく,②が圧倒的多数なのですが,実際に実技研修をしてみると,②を選んだ方の中に「十分,動きのよい」方は少なくないのです。ここで感じるのは,運動が好きであっても「運動が得意」とは簡単にいえない。つまり,運動がよくできること(技能の習得)に重きが置かれてきた体育の現実です。

 「体育」という言葉は,これまで多岐に渡って使われてきました。しかし,近年「スポーツ」と立場が入れ替わってきています。

 例えば,「国体」と呼ばれてきた「国民体育大会」は2023年より「国民スポーツ大会」・「国スポ」へと名称が変更されます。

 それでは,「スポーツ」と「体育」の違いは何でしょうか。

 スポーツについては「心身の健全な発達,健康及び体力の保持増進,精神的な充足感の獲得,自律心その他の精神の涵養等のために個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動」(スポーツ基本法)とされています。つまり,競技に限らず楽しむことを目的とした,テニスや軽いジョギングなど,ほとんどの運動が含まれている広い概念です。

 それに対して体育とは,スポーツの中でも教育的に必要な内容を確実に学べるよう,意図的・計画的に発達の段階に応じて適切に配列されているものとなります。つまり,体育の概念は教育として位置づけられているのです。

 教育ですから,技能だけが指導内容ということはありません。技能については,競技スポーツとは違って,その運動を楽しめる技能を身につければよいのです。運動への意欲,仲間との協力や公平な態度,責任感,安全への意識等の態度。そして,どのようにしたら技能が獲得できるかの知識やそれらを活用するための思考力,判断力,表現力なども重要な指導内容です。体育では,これらをバランスよく習得することが大切です。

 そもそも体育の目標は,「豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力の育成を目指す」(学習指導要領,2017)とあり,運動との良好な関係を築くことが最優先で求められます。この考えを実現する体育の授業であれば,運動が得意か否かばかりを意識することはなくなることでしょう。

 近年は,日常的に運動する子どもとしない子どもの二極化が課題としてあげられますが,どんなに普段運動しない子どもでも,体育の時間だけは必ず運動をしているわけです。子どもたちにとって,体育の時間をいかに魅力的なものとし,運動の楽しさや喜びを味わえるようにするのか,そして,体育の指導内容を確実に学べるかということが,大変重要です。ですから,体育は1人1人の「豊かなスポーツライフ」の基盤になるのです。

目 次

第114号令和3年9月1日

全記事PDF