小学校図画工作科教育法

著 者
発行年月日
2018年3月30日
ISBN
978-4-7679-2113-6
Cコード
C3037
関連タグ
補遺・正誤表あり
定価 2,860(本体価格:2,600円) 在庫あり

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内容紹介

平成29年版学習指導要領準拠の小学校教員養成校向け教科書。多くの図表と用語解説,指導案を配し,わかりやすく記述した15章立て。大学院生,小学校教諭,指導主事も活用できるよう,関連論文の紹介や関連の著書解題も充実。国内や世界の動向についても把握できるよう記述した。各章末にコラム「発展的実践への手立て」掲載。 

まえがき

はしがき

「変化する社会への対応」が学校教育,そして美術教育に求められてきました。その際,現代の先端にあった二人の先達の見方が参考になります。

 丸山真男は,1961年刊『日本の思想』(岩波新書)のなかで,基底に共通した伝統がなく,最初から専門に分化した閉鎖的な日本社会を「タコ壺文化」と比喩して,基底に「共通の広場」がある西洋文化との相違を際立たせました。美術教育にも,絵画・彫塑・デザイン・工芸・鑑賞という専門領域があり,ともすれば「タコ壺文化」に陥りやすい現実があります。専科制度がある地域を除き,図画工作は美術を専門としない小学校教師が授業を担当するため「共通の広場」を必要とします。

 また,「創造性」というと美術や芸術分野の用語と思い込みやすいですが,対極にある科学でも重視しています。1949年日本人ではじめてノーベル賞を受賞した湯川秀樹は「創造性と自己制御」(『創造的人間』筑摩叢書,1966年刊)において,物理学の創造性の問題を核兵器の例示で人間世界への影響を考える自己抑制の重大性を述べています。図画工作学習においても多様な創造的体験が子どもたちの生涯に及ぼす影響を深慮した授業が大切です。

 さて,2017(平成29)年3月に学習指導要領が改訂され,本書もそれに準拠しています。しかし,それを金科玉条として思考停止に陥らないように留意する必要があります。ルールの押しつけになっては本末転倒ですので,その授業がなぜ必要なのか,どのような子ども像が求められているかなど,背景にある理念や願いは何かを考える姿勢が求められています。そして,図画工作科だけにとらわれず,この教科をよりよく発展させるためには教育全体から検討することも視野に入れておくことが重要です。

 本書は,建帛社刊行の『初等教育図画工作科教育の研究』(1979年),『小学校図画工作科教育の研究』(1993年),『小学校図画工作科指導の研究』(2000年),『小学校図画工作科の指導』(2010年)の系譜を受け継ぐ5冊目です。それらは各期における小学校図画工作科教育の指針となってきました。本書においても,授業者一人一人が小学校図画工作科の指導に責任をもつことができるように,過去・現在・未来を俯瞰して,今後の指針となる内容に編集いたしました。本書の内容を自身の経験や考えに照らして,自分の言葉や行為に責任をもつ,このことは子どもの前に立つ指導者としての要と思われます。

 本書『小学校図画工作科教育法』は,読者の立場を考慮した編集をいたしました。教員養成大学の学部生には,基本事項,図・表・写真,用語解説で理解しやすくしました。教職大学院生には,沿革,社会・文化状況あるいは理論との関連,関連論文紹介で多彩な活用方法を提示しています。小学校教諭には,新しい視点に立った学習指導案例,多様な授業実践例,言語活動の例示等で授業化しやすくいたしました。指導主事には,初任研・研修会での指導や活用が可能な構造,各章関連の代表的著書解題が有効です。大学教員には,全15回の授業に添う章立て,研究視点の明示,国内や世界の動向の把握をしやすくしました。さらに,「共通の広場」としてそれぞれの立場が相互にはたらくようご活用いただければ幸甚です。不十分な点にお気づきの場合は忌憚のないご叱正を賜りたく,よろしくお願い申し上げます。

 末筆ですが,ご多用な時期に本書編集の趣旨をご理解いただき創造性と熱意の溢れる寄稿をしてくださった共編著者各位,ならびに本書への資料提供等のご協力いただきました皆様に深謝申し上げます。また,本書刊行に多大なご理解とご支援を賜りました建帛社会長の筑紫恒男氏,ならびに編集担当をはじめ,関係各位に感謝の意を表します。

2018年3月

編著者を代表して

山口喜雄

目 次

第1章 図画工作科教育のベース

1.人類にとっての造形活動と図画工作

2.小学生が大好きな図画工作の課題

3.図画工作を「好き」になる二つの主因

4.「大切」と思われない四要因と改善策

5.図画工作「不要論」日米での歴史的な経験

6.21世紀の二大危機を救う図画工作学習


第2章 個性概念と造形表現の発達

1.21世紀における図画工作教育の原点

2.発達の概念と「個性」の形成

3.子どもの造形活動の発達



第3章 学習指導要領の発展と図画工作

1.学習指導要領の意味

2.学習指導要領の歴史的変遷(昭和22年~平成20年)

3.平成29年版学習指導要領改訂の主な内容


第4章 児童の造形と造形遊びの指導

1.遊びの意義と児童の造形活動

2.造形遊びとは何か

3.造形遊びの内容


第5章 心象表現と絵の表現指導

1.絵の概念と子どもの絵の心象表現

2.絵に表す活動とは何か

3.低・中・高学年の絵の授業の実際


第6章 空間認識と立体の表現指導

1.空間感の形成と子どもの立体表現

2.立体に表す活動とは何か

3.低・中・高学年の立体表現授業の実際


第7章 適応表現と工作の表現指導

1.自律的に生きぬく人間像と適応表現

2.未来を拓く中央教育審議会の答申と小学校学習指導要領

3.子どもが大好きな工作に表す活動と授業づくりのポイント

4.「工作に表す活動」に関する教材研究の実際

5.歴史への眼差し―工作・工芸教育の重要性に対する認識を深めるために―

6.世界への眼差し―工作・工芸教育発祥地:フィンランドの教育―



第8章 平面作品の鑑賞

1.文化としての鑑賞活動―表出描画の感受から表現意図への感得へ―

2.鑑賞指導における空間感の感受

3.心象表現の鑑賞指導

4.適応表現の鑑賞指導

5.子どもが学びに向かう鑑賞


第9章 立体作品の鑑賞

1.自然環境,生活環境における立体とのかかわり

2.立体作品の鑑賞の方法

3.立体作品の鑑賞に関する授業の実際


第10章 〔共通事項〕を踏まえた学習指導

1.図画工作における指導内容の構成

2.学習指導要領における〔共通事項〕の表記

3.学生の指導案から読み取る〔共通事項〕


第11章 可能性を伸ばす図画工作の評価

1.図画工作における評価とは

2.学習指導要領と評価の観点

3.児童・教師の可能性を伸ばす評価を実現するために

4.可能性を伸ばす評価の実際(自己評価と相互評価)


第12章 伝統や文化に関する教育と図画工作

1.教育の目的と図画工作科における伝統や文化に関する教育

2.図画工作科と伝統や文化に関する教育の充実

3.鑑賞領域の改善と「生活の中の造形」(5・6年の鑑賞)

4.世代を超えた叡智の受け渡し


第13章 図画工作科における教科書・美術館の利活用

1.図画工作科における教科書の利活用

2.地域の美術館などの利用や連携の充実


第14章 国内外の美術教育研究の動き

1.国内外の美術教育研究の動きを学ぶ意義

2.日本と諸外国の美術教育研究(1945年以前)

3.日本と諸外国の美術教育研究の動き(1945年以降)

4.21世紀初頭の諸外国の美術教育事情と研究の視点


第15章 世界的・社会的視野での図画工作研究

1.世界的・社会的視野と図画工作

2.世界の図画工作カリキュラムと実践

3.社会に開かれた教育課程と図画工作

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書籍情報

シリーズ名・巻数
書籍名 小学校図画工作科教育法
著 者
分 野
シリーズ
ISBN 978-4-7679-2113-6
Cコード C3037
定 価 2,860円 (本体価格:2,600円)
発行年月日 2018年3月30日
版型・装丁 B5 並製
ページ数 208ページ
関連タグ