まえがき
2015 年アメリカ合衆国で開催された国連サミットにおいて,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)が採択されました。これは,世界で共有すべき持続可能な開発のための諸目標を達成するための行動計画であり,17 の目標と169 のターゲットが示されています。これらの目標の実現は全て人の力によるものですから,とりわけどのような人を育成するのか,「教育」が極めて重要です。SDGs において,「教育」は,目標4 に「質の高い教育の提供」として示されています。
これまで日本は「持続可能な開発のための教育」(ESD)を提唱し,教育の質の向上にも重点を置いて推進されてきました。ESD に基づいた学びの留意点として「ESD 推進の手引」(文部科学省,2016(2018 年改訂))には,「何のために何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」を大切にしながらも,活動を体験しただけで終わらないように「何ができるようになるのか」を常に振り返り,評価を確実に行うことが述べられています。こうしたESD を具現化するため,その視点は小・中・高等学校等の学習指導要領の中に,盛り込まれています。「どのように学ぶのか」に当たる「主体的・対話的で深い学び」として学習指導要領に示された指導改善の視点は,その一例といえます。このことは当然ながら保健体育科でも同様です。そうした学びを支える保健体育教師を育成するに当たっては,学習指導要領の正しい理解が求められます。
このような背景を踏まえた上で,本書は「体育科教育法」の教科書として,保健体育科の教員養成の質保証に資することを目指し,以下の事項を重視して編成しました。
① 学習指導要領に基づいた保健体育(主として体育分野,科目体育)の目標,内容の理解,指導実践及び評価に関する知識の獲得を目指すこと
② 「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の3 つのアクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業作りに資すること
本書の使い方としては,2 つの特徴があります。
① 大学における標準15 回の授業の流れを考慮し,まとまりごとに第1 週,第2 週…といった章立てをしています。ただし,授業のシラバスは,柔軟に構成する必要があることから,順番を入れ替えていただくことは一向に差し支えありません。
② アクティブ・ラーニングの視点を盛り込み,各章の項目タイトルを原則として発問型(…だろうか)として提示し,適宜,「話し合ってみよう」「調べてみよう」といった課題を提示しています。
未来の社会の担い手を育成する教育において,教師の質保証は強く求められています。本書が質の高い保健体育教師育成の一助になれば幸いです。
末筆になりますが,本書刊行の機会をいただきました建帛社に感謝いたします。
2021 年3 月
編著者