介護,医療,保育,学校等の現場における事故と訴訟。判例を通じ,法的な視点からそうした現場でのリスクマネジメントについて詳述。
*2021年9月に開催されました日本リスクマネジメント学会第46回全国大会において,本書が優秀著作賞を受賞しました。
介護,医療,保育,学校等の現場における事故と訴訟。判例を通じ,法的な視点からそうした現場でのリスクマネジメントについて詳述。
*2021年9月に開催されました日本リスクマネジメント学会第46回全国大会において,本書が優秀著作賞を受賞しました。
日本リスクマネジメント学会創立者である亀井利明先生は「リスクは繰り返す」「リスクは変化する」「リスクは隠れている」とったリスクの三様相により,リスクは千差万別,千変万化するがゆえ,リスク処理の選択の重要性を指摘され,日本リスクマネジメント学会理事長である上田和勇先生は「リスクは頻度と強度を変え,繰り返す」とリスクマネジメントの核心を指摘されている。今現在の社会情勢はまさに予測困難な時代に突入しているように思われる。「リスク」とは未来において生起するかもしれない何らかの損害を現在の時点において見積もることであると考える。つまり,「リスク」とは本来的に知り得ないはずの「未来」について「現在」の「関係性」の中で描写するということである。
介護の現場では「介護リスク」,保育の現場では「保育リスク」,学校現場では「学校リスク」,医療の現場では「医療リスク」が発生している。
このリスクで注目すべき点は,訴訟において,損害を金銭で回復させるという裁判で「見えてくる」損害回復モデルという従来の伝統的司法制度に依拠したシステムから,現代の裁判では見えてこない「誠実な対応」「謝罪」「再発防止」という行為者の感情的次元にこそ,光をあてて被害者を救済することに主眼があるように思われる。
リスクが発生すると,対応によっては,被害者及びその家族は,穏やかだった表情が豹変し,不満から失望,怒りに変わり,加害者側の過失を徹底的に追及するために,裁判を起こす可能性がある。裁判では,長期化し,精神的な負担が増大し,本来,被害者の自己責任で発生した転倒・骨折でさえも加害者側の責任として追及してくる。保険により金銭賠償をすればいいということだけは済まされないのが「介護リスク」「保育リスク」「学校リスク」「医療リスク」である。
本来感謝されるべき側が裁判に訴えられることは異常なことである。本書を通じて,リスクが発生した事後対応を分析し,リスクに対する危機意識と自覚を喚起する一助になれば幸いである。
本書の執筆にあたり,東都学園学園長の渡辺信英先生に言語一つひとつの奥深さ,重さ,輝き,精緻さと,多面的なものの見方など細部にわたりご教授していただき,心より感謝申し上げる。日本リスクマネジメント学会理事長上田和勇先生,ソーシャル・リスクマネジメント学会理事長戸出正夫先生に,学会報告等でリスクマネジメントの本質をご教授いただき心より感謝申し上げる。
最後に本書の出版にあたり,本書の企画・構成の段階からご助言をいただいた建帛社の方々に深く感謝申し上げる。
なお,本書は日本リスクマネジメント学会誌『危険と管理』,ソーシャル・リスクマネジメント学会誌『実践危機管理』,『東北福祉大学紀要』の拙稿を加筆・修整したものである。
2020年3月
菅 原 好 秀
第1章 裁判事例から学ぶリスクマネジメント
第1節 リスクと社会学―感情的コンフリクトに関する一考察―
第2節 地域教育行政とリスクマネジメント―学校事故裁判例から―
第3節 介護事故と予見可能性―介護事故裁判例からの一考察―
第4節 介護事故裁判の新たな潮流―精神障害者の監督者の責任から―
第5節 介護の責任と注意義務
第6節 介護における人的サービスとリスクマネジメント―心の危機管理からの一考察―
第7節 ナラティヴと医療過誤訴訟に関する研究―原告側が弁護士を解任し,本人訴訟で勝訴した意義―
第8節 苦情とリスクマネジメント―責任無能力者の監督義務者の責任と介護事故裁判例を踏まえて―
第2章 介護事故裁判事例とリスクマネジメント
ケース1 介護サービスの清掃義務違反に伴う利用者の転倒・骨折事故
ケース2 デイサービス利用中の行方不明にかかる死亡事故
ケース3 介護サービス中の見守り義務違反による転倒・骨折事故
ケース4 老人保健施設における転落死亡事件
ケース5 老人保健施設における誤嚥による死亡事故
ケース6 特別養護老人ホームにおける誤嚥による死亡事故
ケース7 送迎中の転倒・骨折死亡事故
ケース8 ボランティアの見守り義務違反による転倒・骨折事故
ケース9 利用者同士のトラブルによる転倒事故の責任
ケース10 災害時の利用者の行動特性と今後の施設職員の対応
第3章 保育事故裁判事例とリスクマネジメント
2021年度より実施の社会福祉士養成課程「社会福祉の原理と政策」のテキスト。最新の法改正に対応し,今後の社会福祉の方向性に言及した。
2021年度より実施の社会福祉士養成課程における「地域福祉と包括的支援体制」に対応。地域の実情に合わせて加筆・調整を加えた第2版。
2021年度より実施の社会福祉士および精神保健福祉士養成課程「権利擁護を支える法制度」の教科書。事例問題を含む過去問解説や実際の判例を通じ,法を駆使した意思決定支援を実践的に学べるよう編集。
再犯防止と生活支援という,司法と福祉の異なる見方を組み合わせた対象者支援のために,必要となる法的知識を判例を引きつつ解説。
社会福祉士・精神保健福祉士国家試験出題基準準拠教科書。社会保障の概念・理念から制度全般をわかりやすく解説。2023年12月時点の最新動向を反映した「三訂版」。卒論対策・受験対策・就活対策等も掲載。
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