教育課程・全体的な計画の意義と基礎理論,作成方法,実践力を高める工夫をまとめた。2019年度実施の教職課程・保育士養成課程に対応。
内容紹介
まえがき
はじめに
今日,乳幼児期の教育の重要性への認識がますます高まっています。人生における乳幼児期の大切さは,生命の保持のために,医療,保健,健康,栄養の観点からも大きくクローズアップされています。今まさにその時期を逃すことなく,適切な環境を準備し,援助を行うことが具体的に明らかにされているのです。乳幼児期の教育についても,その時期に適した教育の保障が,子どもの人権の問題として提示されています。
カリキュラムとは,日本語では教育課程と訳されます。乳幼児期の特徴にあった,まさにその時期に適切な乳幼児教育を保障するために,カリキュラムが作成されます。乳幼児の権利としての保育を保障するために,乳幼児期の教育の,ねらい,内容,方法そしてその質の保障をするための振り返りの在り方などが,カリキュラムによって,道しるべとして示されます。
乳幼児の教育カリキュラムは,小学校以降のカリキュラムとは大きく違います。乳幼児教育の現場では,教科書がなく,チャイムが鳴らず,一斉指導の授業は行いません。子どもの主体性を尊重し,環境を通じた乳幼児教育の現場では,授業といわず,実践といいます。小学校以降の学習指導要領とは異なり,保育所保育指針や幼稚園教育要領,幼保連携型認定こども園教育・保育要領では,到達度目標として暗記等による知識の獲得や鍛錬による技術の習得を明示することに重きが置かれていません。保育内容は大切ですが,それ以上に,学びに向かう姿勢,つまり,内容が何であれ,ものや人に気付き,興味・関心をもち,さらに,考えたり,試行錯誤したり,アレンジしたりといった気持ちをもち,そして実際に操作することが,学びの芽生えとして大切にされています。
指針や要領では,乳幼児期特有の子どもの姿を踏まえ,資質・能力の基礎を育むことがめざされています。乳幼児期に育みたい力が明示されています。その実現のために保育者には,広く深い学びと経験に裏付けされた子ども理解の力と,科学的根拠に基づく保育実践力が必要です。子どもの現実からスタートし,計画を立て,実践し,評価し,それに基づきさらに学び,計画を立てる。この繰り返しこそが実践の質を向上させます。このすべての過程で記録が必要です。一般的に記録は専門職の大切な専門技術とされています。
本書では,実践力を培うことを大前提に,保育のカリキュラムを概説します。そのねらいは,教育保育課程の重要性について十分な理解を図り,基礎理論を学び,作成に関わる基礎技術を習得し,そして何よりも,記録への肯定的で積極的な態度を培うことです。そのために役立つと思われる事例,コラム,演習資料を提示しています。養成教育および現職研修いずれにおいても,シミュレーションによる思考力の向上を図る演習の積み重ねが欠かせないと考えます。
なお,本書の前身は『シードブック 乳幼児の教育保育課程論』として,2010 年に初版を発行しました。それから要領や指針が改訂(定)され,また,保育士養成課程において「保育課程論」が「保育の計画と評価」に改められたことを受け,本書も書名・内容を改めて,このたび発行いたしました。
本書の企画にあたり,趣旨に賛同してくださった多くの先生方から資料の提供をしていただきました。赤間保育園の小方圭子先生,霧ヶ丘幼稚園の淵和子先生,元若松幼稚園の齊藤智子先生,元東広島サムエル保育園の柏本和子先生,神戸大学附属幼稚園副園長の田中孝尚先生等,各地の先生方,子どもたちに,心より感謝します。
2019 年3 月
北野幸子
目 次
第Ⅰ部 保育現場における教育課程や全体的な計画の編成と評価
第1章 乳幼児教育におけるカリキュラムの実際―実践の中の記録
1.保育実践の中の記録を学ぶ前に
2.保育者の1日の中で登場する記録
3.乳幼児教育のカリキュラムと実践
第2章 保育者にとっての教育課程・全体的な計画
1.保育者にとっての意味
2.記録にかかわる悩み・記録に込める思い
第Ⅱ部 教育課程・全体的な計画を創る基礎理論
第3章 教育課程・全体的な計画とは何か
1.教育課程・全体的な計画とは何か
2.保育の目標と計画の編成の原則
3.保育の計画における記録と省察
第4章 子どもと遊びの理解
1.子どもの遊びの意味
2.園における子どもの遊びの位置づけ
3.「飛び込む」とは何か
4.遊びの発展を促す援助とは
第5章 発達適切性と子どもの個性
1.子どもの発達
2.乳幼児の発達に適した保育
3.個々の子どもの発達に適した保育
4.子どもの発達の洞察力と乳幼児のカリキュラム
第6章 基礎資料としての要領と指針(変遷と現在)
1.「幼稚園教育要領」の変遷
2.「保育所保育指針」の変遷
3.「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の制定
4.「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の同時改訂(定)
5.保育の目標と計画の基本的な考え方
第Ⅲ部 教育課程・全体的な計画を創る方法
第7章 援助計画の種類と書き方
1.保育の援助計画とは
2.短期計画と長期計画
3.乳 児
4.1歳以上3歳未満の幼児
5.3歳以上児
6.まとめ
第8章 環境設定の方法
1.乳幼児の主体性を尊重する教育保育の環境
2.教育保育の環境の具体例
3.教育課程・全体的な計画・指導計画の中の環境設定
第9章 教育保育実践計画
1.設定保育の計画
2.「縦割り保育」の計画
3.「延長保育」「預かり保育」の計画
4.季節や行事と保育の計画
第Ⅳ部 実践力を高める教育課程・全体的な計画
第10章 実践に応じた教育課程・全体的な計画の工夫
1.地域子育て支援の保育の計画
2.家庭との連携を図る保育の計画
3.幼保一体化時代の保育の計画
4.小学校との連携を図る保育の計画
第11章 実践の質の向上を図る記録のあり方
1.実践後記録の意義
2.保育実践の評価
3.記録と保育のマネジメント
第12章 保育実践力の向上とこれからのカリキュラムの編成と評価
1.保育実践における個別性・多様性・偶発性
2.発想の転換を図る:保育計画の発展
3.これからの乳幼児カリキュラム
この本をみた方に
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