内容紹介
まえがき
序 文
プレシジョン栄養学という言葉はまだ聞き慣れないかもしれない。最新の技術に基づく先進的で精密な個別化栄養学をこのように呼ぶようになった。人にはそれぞれの「体質」があり,太りやすかったり,特定の病気になりやすかったりする。すべての人が幸せと高いQOLを実感できるウェルビーイングを実現するために,個々人に最適化された健康的な食事のためのプレシジョン栄養学が求められている。プレシジョン栄養学は,これまでの栄養学の知識をフル活用するとともに,情報技術,AI技術を最大限に活かすことによりビッグデータを駆動力として,あまり栄養学を意識しない人でも健康になれるシステムを目指している。つまり,プレシジョン栄養学は,あなたに「寄り添う」,「持続可能」なかかりつけの栄養士・管理栄養士のようなものである。
世界的にプレシジョン栄養学の社会実装研究が進む中,2023年5月に第77回日本栄養・食糧学会大会が札幌コンベンションセンターで開催されたが,本書と同名のシンポジウムは会場に入りきれないほど超満員となり,世界の動向に対して遅れていた日本でも研究機運が高まってきていることを感じさせるものとなった。本書は,シンポジウムでのスピーカーを中心に,新たに7人の方に参画していただき,プレシジョン栄養学の現状と展望を概説した。
プレシジョン栄養学は個人を特定(個別化)するところから始まるが,従来のニュートリゲノミクスや分子栄養学に網羅的解析を行うオミクス生物学が加わり,精密な個別化が可能になった。さらに,腸内細菌の多様性が個人差や体質をよく説明することもわかってきた。睡眠やエネルギー摂取,女性のライフスタイルの複雑さ,体内時計などが個別化の重要な因子となっていることも明らかにされてきた。現代の情報通信技術の進歩により,ウェアラブルデバイスを使って非侵襲的に体の中を推測することもできるようになってきている。
プレシジョン栄養学を実践していくには,まだ多くの課題がある。自身の健康状態や食事を知るためのツールと,その情報を行動変容に導くツール,それらを有効にするための科学的エビデンスが必要である。したがって,科学的根拠に基づく栄養学序(evidencebasednutrition:EBN)をしっかりと認識しつつ,新たな手法に対するエビデンスを構築していくことは,これからの課題であり,実際にエビデンスに基づいて食事の提案・提供をしていく必要がある。プレシジョン栄養学は研究にとどまらず,社会への実装により多くの人を健康に導く,意味のある学問分野であるとともに,社会活動である。そして多くの産業が協業するための基盤となるのが,情報技術・AI技術を活用した「デジタルプラットフォーム」である。このようにレシピデータベースや個人情報などの権利保護を実現しつつ,緩やかに共有できる社会インフラが必要である。
本書ではほとんど触れていないが,「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」は人類の喫緊の課題である。私たちの食に関連する行動も地球に対して大きな負荷になっているため,栄養学もこれを意識していかなければならない。プレシジョン栄養学は食の出口としての健康を提供するとともに,過剰なエネルギーを摂取せず,最適な食事を提供することで食品ロスを減らし,なおかつ美味しい食生活に貢献できるものと考えている。
本書の趣旨に賛同いただき,多忙の中,最新の知見をまとめていただいた執筆者各位に感謝申し上げます。また,本書を刊行するにあたり多大なご尽力をいただいた株式会社建帛社の筑紫和男氏に深謝申し上げます。
2024年3月
責任編集者 小 田 裕 昭
田 原 優
園 山 慶
目 次
序 章 プレシジョン栄養学の現状と展望
第1編 データ駆動型個別化方法
第1章
ゲノムとプレシジョン栄養学
第2章
腸内細菌とプレシジョン栄養学
第3章
女性とプレシジョン栄養学
第4章
エネルギー消費量とライフスタイルの個人差を考慮したプレシジョン栄養学
第5章
プレシジョン栄養学のためのウェアラブルデバイスの現状と展望
第2編 プレシジョン栄養学の社会実装に向けて
第6章
プレシジョン時間栄養学の実践
第7章
EBNによるプレシジョン栄養学の実装
第8章
睡眠とプレシジョン時間栄養学
第9章
プレシジョン栄養実践へのメニュー提案システムの構築
第10章 プレシジョン栄養学の世界の動向
書籍に関する
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