国際栄養学 ―グローバルな栄養課題とその対策―

著 者
発行年月日
2024年9月5日
ISBN
978-4-7679-6224-5
Cコード
C3047
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専門書

定価 3,960(本体価格:3,600円) 在庫あり

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内容紹介

 『国際栄養学』は,現代における栄養や食生活に関する国際的な課題を多角的に取り扱い,その解決に向けて必要な知識とスキルを提供することを目的とした教科書である。特に日本を含む国際的な視点から栄養問題にアプローチし,現場から政策立案までの広範な視点を養うことを目指している。

 世界の人口は現在81億人を超え,今後数十年にわたって増加が続く見込みであるが,この増加の大部分は中所得国や低所得国に集中している。このような状況において,世界の栄養問題は複雑化しており,食料不足や栄養不良だけでなく,過剰栄養や地球温暖化による環境負荷など,複数の課題が同時に進行している。2023年現在,7億3500万人が飢餓に直面しており,コロナウイルス感染症拡大前の2019年と比べて増加している。このような背景から,国際社会においては,食料安全保障や持続可能な食料システムの構築が急務となっている。

 国際的な栄養問題に対する解決策は,個別の国や地域にとどまらず,世界全体で協力し合うことが求められる。1992年の世界栄養宣言では,「栄養的で安全な食物へのアクセスは個々人の権利である」と明言されており,これを実現するためには,各国が協力して政策を策定し,実践していくことが必要不可欠である。また,持続可能な開発目標(SDGs)の一環として,「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」という目標が掲げられており,これらを達成するために栄養・食生活が果たすべき役割は非常に大きい。

 本書は,こうした国際的な課題に対応できる人材を育成するために執筆されたものである。具体的には,健康・栄養に関連する多様な課題を発見し,解決に向けた政策的な観点からのアプローチを学ぶことができる。また,国際的な文脈で活躍するために必要なリーダーシップやコミュニケーション能力,そして倫理観と使命感を養うことができるよう,専門的な知識と実践的なスキルを提供する内容となっている。

 さらに,日本国内における栄養政策だけでなく,国際的な保健・栄養政策の立案と実践に役立つ内容を豊富に取り入れている。これにより,読者は,栄養に関する多様な課題に対して,グローバルな視点から適切に対応する能力を身につけることができる。管理栄養士や栄養士を目指す学生だけでなく,国際保健学を学ぶ学生や,実際に国際的な栄養問題に取り組んでいる専門家にとっても参考になる一冊。

まえがき

は じ め に

 今,これまで以上に世界で共通の課題が多く出現し,こうした課題の解決は一国では難しく,世界の人々と共に解決することが必要となっています。栄養・食生活に関する課題に対しても,現場から政策までの視点をもち,世界の人々と共に考え,解決できる人材が求められていることから,本書を出版することなりました。

 世界の人口は81億1,900万人(「世界人口白書」2024)であり,2080年代まで増加を続ける見込みです。日本の人口は減少に転じている一方で,増加する人口の多くが中所得国,低所得国です。人口増加の中で,世界食糧計画(WFP)によると,飢餓に直面している人口は,2023年現在で 7 億3,500万人であり,新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年より増加しています。さらに,世界中で低栄養と過剰栄養が同時に起こる栄養不良の二重負荷(double burden of malnutrition)が指摘され,人々の健康との関連が示されています。

 こうした現状に対して,1992年世界栄養宣言(FAO/WHO)においては「栄養的で安全な食物へのアクセスは個々人の権利である」とされています。また,国連食糧農業機関(FAO)は,食料安全保障(food security)とは「全ての人が,いかなる時にも,活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために,十分で安全かつ栄養ある食料を,物理的,社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況」とし,これらが保障されることが必要であるとしています。国連による2015年から2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)においても,「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」が含まれています。したがって,「人間の生存や健康」のために,栄養・食生活が重要であることは明らかです。

 一方で,地球温暖化をはじめとした地球環境問題が深刻化し,その解決に寄与する 1 つの要素として,栄養・食生活が注目されています。国連は SDGs 達成に向けた 6 つのエントリーポイントの 1 つとして,「持続可能な食料システムと健康的な栄養パターンの構築」を挙げています。ま た,2019 年 に は EAT-Lancet Commission に よ り, 地 球 に も 人 間 の 健 康 に も よ い 食 事“Planetary Healthy Diet”という考え方が提唱され,FAO/WHO からも「持続可能で健康的な食事に関する指針」が出されています。そこでは,「健康的で環境への影響が少ない食事を促進することが急務であること,これらの食事は,すべての人にとって社会文化的に受け入れられ,経済的にアクセス可能である必要」が指摘されています。また,「人間の生存や健康」とともに「持続的な環境」のために,栄養・食生活が重要であることが提唱されています。

 日本においても,こうした世界的(グローバル,国際的,各国の)課題に対応できる人材の養成が急務となっています。そこで,厚生労働省により,2021年度,2022年度に国際栄養人材養成について,2021年度に「諸外国の栄養政策立案・展開支援を担う専門人材の育成に向けた調査等一式」,2022年度に「国際保健・栄養人材育成の普及推進に向けた調査等一式」の事業が実施され,大学院における国際栄養人材の養成について,育成する人材のコンピテンシー(成果につながる行動特性や能力),教育プログラム,テキスト素案の作成が行われました。これらの作成は,諸外国の国際保健や国際栄養の大学院等の教育に関する情報の収集と分析,国際機関等で栄養政策に携わっている日本人の方々へのインタビューなどをもとに行われました。 


【育成する人材のコンピテンシー】

育成する人材像の到達に必要な姿勢や力

1 )世界の栄養課題・健康課題解決の実践者としての倫理観と使命感を有する。

2 )国際栄養分野の政策立案・実践に求められる専門的知識を身につけている。

3 ) 健康・栄養の多様な課題の発見と解決に向けて,政策的な観点から,様々な課題解決手法を用いることができる。

4 )多様性ある組織の中で協働し,目標を達成するためのリーダーシップを発揮できる。

5 ) 自らの意見を論理的に構築し,言語の壁を越えて口頭・文書による双方向の議論を行うことができる。

6 ) グローバルな潮流や国際情勢の変化をとらえて,あらゆる危機の結果として生じる栄養課題に対して的確に対応することができる。

【教育プログラム】

 人材像およびコンピテンシーを踏まえて,これらを達成するために必要な授業内容,授業形態について検討し,以下の教育プログラム(案)が作成された。本教育プログラム(案)は,管理栄養士・栄養士養成課程の修了者を対象とした修士課程のプログラム(案)である。

 11の科目(うち7科目は講義,2科目は演習,1科目は実習,1科目はゼミ・論文執筆)で構成され,合計単位数は30単位,すべて必修科目を想定している。

1 )国際栄養概論─国際栄養にフォーカスした歴史と変遷─(講義・2単位)

2 )フードセキュリティ(講義・2単位)

3 )低・中所得国の健康問題と栄養管理(講義・2単位)

4 )女性・母子を中心とした,ライフステージごとの健康・栄養(講義・1単位)

5 )低・中所得国における栄養・食事調査の手法とデータ解釈(講義・2単位)

6 )健康および栄養・食の決定要因(講義・2単位)

7 )栄養政策・プログラムの立案・展開・モニタリング評価(講義・3単位)

8 ) 演習(リーディング・ライティング,コミュニケーション・交渉,プレゼンテーション)(演習・2単位)

9 )演習(質的・量的データの収集・分析・解釈)(演習・2単位)

10)実習(学外実習,政策関係経験者とのディスカッション)(実習・2単位)

11)ゼミ・論文執筆(10単位)


 厚生労働省の事業では,教育プログラムの 1 )~ 7 )の内容について,テキスト素案が作成されました。本書は,そのテキスト素案をもとにして,著者らが作成した教科書です。教科書にする際に,学部の学生,栄養以外の国際保健学を学ぶ学部や大学院の学生が使用できるよう,説明の追記や用語の解説,事例等を入れています。

 本書が,世界の栄養・食生活に関する課題(食を通した健康問題/地球環境問題)を世界の人々と共に考え,共に改善したいと思うきっかけになることを,著者一同,心より願っています。

 2024年8月

編著者を代表して

新潟県立大学 村 山 伸 子


目 次

第1章 国際栄養概論 ―国際栄養にフォーカスした歴史と変遷

1.国際保健の変遷

2.国際保健の中での栄養課題の変遷

3.国際保健の中でのアクターの変遷,資金の変遷

第2章 食料安全保障(フードセキュリティ)

1.世界の人口・食糧問題

2.フードセキュリティに関する国際的議論の変遷

3.フードセキュリティを支える食料システム:持続可能な生産と消費

4.量的(供給)および質的(栄養)なフードセキュリティへの課題

5.食料システムに関する政策・戦略

6.域別フードセキュリティ課題の特徴

7.持続可能で強靭かつ包括的な未来に向けて

第3章 低・中所得国の健康課題と栄養管理

1.低・中所得国の健康問題

2.低・中所得国におけるヘルスケアシステムと栄養管理

3.栄養不良の病態と栄養管理

4.非感染性疾患(NCDs)の栄養管理

5.最先端科学技術を活用した栄養管理

第4章 女性・母子を中心とした,ライフステージごとの健康・栄養

1.低・中所得国における妊娠・授乳期の健康・栄養問題と必要な支援

2.低・中所得国における乳幼児期の健康・栄養問題と必要な支援

3.低・中所得国における学童期の健康・栄養問題と必要な支援

4.低・中所得国における思春期の健康・栄養問題と必要な支援

5.低・中所得国における成人期の健康・栄養問題と必要な支援

6.低・中所得国における高齢期の健康・栄養問題と必要な支援

7.低・中所得国におけるジェンダーと健康・栄養問題と必要な支援

8.非常時における要配慮者の健康・栄養問題と必要な支援

第5章 健康および栄養・食生活の決定要因

1.健康の決定要因

2.健康の社会的決定要因

3.栄養や食生活に影響を与える諸要因

4.プラネタリー・ヘルス

第6章 低・中所得国における栄養・食事調査の手法とデータ解釈

1.個人レベルの栄養・食事調査

2.世帯レベルの栄養・食事調査

3.地域レベルの栄養・食事調査

4.国レベルの栄養・食事調査

5.多様な課題発見の手法

6.研究倫理

第7章① 栄養政策・プログラムの立案・展開・モニタリング評価

1.グローバル社会における栄養政策の位置づけ

2.グローバルな栄養戦略に関する情報収集と評価

3.栄養戦略策定に必要な政治体制,行政構造,財政,ヘルスシステムの理解

第7章② 栄養政策・プログラムの立案・展開・モニタリング評価

1.栄養政策のフレームワーク

2.事前評価のための情報取集

3.栄養政策と栄養プログラム

4.栄養政策・栄養プログラムの提案

5.栄養政策・栄養プログラムの実施

第7章③ 栄養政策・プログラムの立案・展開・モニタリング評価

1.栄養政策・プログラムのモニタリング・評価とは

2.評価の種類と方法

3.その他の評価

4.評価結果のフィードバック

5.国際協力の計画・評価手法

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書籍情報

シリーズ名・巻数
書籍名 国際栄養学
著 者
分 野
シリーズ
ISBN 978-4-7679-6224-5
Cコード C3047
定 価 3,960円 (本体価格:3,600円)
発行年月日 2024年9月5日
版型・装丁 B5 並製
ページ数 272ページ
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