平成20年1月1日
保育所保育指針の改定
白梅学園大学教授 民秋 言この著者の書いた書籍
「えっ,もう変わるの?」「この間変わったばかりなのに!」,1999年改定の際にしばしば聞こえてきた声だった。それもそのはず1990年に改定されたばかりであった。
今次の改定もそれを受けてのものである。前と同じ声が聞こえてきそうだ。
しかし,前回も今次も,改定にはそれなりの必然性があると私は考えている。それは保育所への社会的期待がますます大きくなってきている,ということであろう。
近年の社会全体の急激な変化,特に都市化や核家族化,少子化といった「子どもを取り巻く環境の変化」は,家庭や地域における子育てを容易でなくさせてきた。保育所による子育て支援の必然である。1990年改定指針や2001年法改正でも明言されているところである。一方で,本来の子どもを健やかに育てる営み,保育への期待もいよいよ大きいものとなってきた。
また,1998年法改正による「措置から利用・選択へ」の変更は,保育所が制度的には利用者によって選ばれるものとなった。社会からの多様なニーズにどう応えていくかが,保育所の課題である。
こうした社会的背景(必然)を受けての今次改定は,社会的(法制的)形式・性格からみて「大きな変更」といえるが,保育(内容)の本質からみると「ほとんど変更なし」といってもよいと思う。
一.告示化
―法的拘束力―
まず大きな変更としては,従来の「通知」に対して,「告示」となることだろう。ガイドラインから法律へ移ることにより法的拘束力をしっかりもたせ,規範性(守ることを求める力)をより強くしている。
告示としての指針は「児童福祉施設最低基準」ともなる。現行第35条は変えられるだろう。
社会からの役割期待(健やかな子どもの育ちと子育て支援)に応えるためには,この指針は遵守されなければならない最低基準なのだ。しかし一方で,そうした内容(基準)を社会が保育所に担保している保証ともいえよう。
二.大綱化
―遵守と創意・工夫―
大きな変更として,「大綱化」も図られる。大綱化のねらいは2つである。
1つは,告示として遵守されることを求めているわけであるから,現実に守られなければ意味がない。二万余か所ある保育所が守ることのできるものでなければならない。そのため,重要な要素だけをとり出し,大枠のレベルで基本だけを整理している。
2つは,各園がこの大枠のレベルをもとに創意・工夫をこらせるようにしていることである。利用・選択施設であるから,各園がそれぞれ独自性を発揮して特色ある保育を展開することが求められる。多様な保育ニーズに対応するための大綱化といえよう。
三.明確化
―十分な内容理解―
告示化され最低基準となれば,すべての園で十分かつ正確な内容理解が図られる必要がある。
現行指針は,内容的には質的に充実していると思う。したがって,今次の改定でも継承すべきところは少なくない。例えば「養護と教育の一体」という基本は保育所保育の特性として欠かせない。「ほとんど変更なし」の側面である。
しかし,具体的にどういうことなのか,いま一つ十分な説明がないようである。ねらいとしての「心情・意欲・態度」についても同様である。
大綱化はともすれば抽象的表現が多くなりがちだが,本質にかかわる根幹はしっかり説明されなければならない。
今次の改定が保育所保育の質的向上につながるよう念じて一筆したためた。お互いに励んでいこうではないか。
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