建帛社だより「土筆」

平成20年1月1日

『栄養・食糧学用語辞典』の編集に携わって

郡山女子大学教授  藤本 健四郎この著者の書いた書籍

 000年から2年間,日本栄養・食糧学会誌の編集委員長であった折に,学会の事業として『栄養・食糧学用語辞典』の企画が取り上げられた。これに先立って日本栄養・食糧学会では1997年に学会創立五十周年事業として,野口忠先生が編集委員長を務められて『英和・和英 栄養・食糧学用語集』が建帛社から刊行されている。小生が学会誌の編集委員長を務めていたことから,『用語辞典』の編集も担当することになった。編集作業はたいへん長期間を要したが,2007年10月に同じく建帛社から刊行の運びになった。収録用語10,000余語,執筆者は日本栄養・食糧学会会員を中心に,280名に上った。



 『英和・和英 栄養・食糧学用語集』は栄養・食糧学に関連した用語が日本語および英語を見出し語として約13,000語収録されており,英語の論文を書くときに重宝である。普段,日本語ではわかっていても,英語の単語がすぐに浮かんでこない場合がある。そんなときに用語集で気軽に引くことができ,大いに活用させていただいている。



 方,自分の専門分野と少し外れる分野の論文を読むときの辞典としては,用語集は残念ながら情報が限られている。栄養・食糧学の分野といっても,ずいぶん広範囲にわたっている。科研費の主な関連分野でみても,「総合領域」の健康・スポーツ科学と生活科学,「農学」の農芸化学(食品科学),「医歯薬学」の社会医学(公衆衛生学・健康学)と内科系臨床医学などさまざまな部門があり,旧来の学部名をとってみても,家政学部,農学部,医学部と異なっており,当然,日常的に使用される用語もそれぞれの分野で重ならない部分が大きい。こうした状況では,自分の慣れ親しんだ分野から少し外れた論文,特に英文を読む場合には,辞書を引きたくなることがしばしばある。このような場合に,今回刊行された『栄養・食糧学用語辞典』は,机上に置いて手軽に利用していただきたいものである。細分化されたそれぞれの分野については,現在,「生化学」「生理学」「医学」「食品学」「調理学」など優れた「辞典」が出版されている。しかし,栄養学・食糧学,およびその関連分野をすべて網羅する辞典は見当たらない。そこに,本辞典の位置づけがあり,必要最小限の情報が得られるように編集を行った。また,索引には英和辞典としての機能ももたせた。



 養・食糧学の分野は,日進月歩で新しい概念や研究手法が開発されている。日本人の栄養の基本である「栄養所要量」も2005年には「食事摂取基準」に改められた。これは,1970年に初めて策定された「日本人の栄養所要量」が,栄養失調という言葉が生きていた時代に栄養欠乏症を主眼としていたものを,栄養素過剰への対応を考慮して新たに策定されたものである。栄養・食糧学分野の用語も以前にも増して激しく変わるようになった。例えば食育メタボリックシンドロームは今では広く一般に知られた語だが,10年前に刊行された『英和・和英 栄養・食糧学用語集』には収録されていない。



 辞典では,新しい用語で重要と思われるものは収録するように務めた。大学院や学部の栄養・食糧学を目指す若い方々だけでなく,ベテランの方にも新しい分野に接する際に役立つ座右の書である。

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第88号平成20年1月1日