平成20年1月1日
法人化した日本フードスペシャリスト協会
日本フードスペシャリスト協会理事 実践女子大学教授 田島 眞この著者の書いた書籍
任意団体として活動していた日本フードスペシャリスト協会は,2007年3月に農林水産大臣より社団法人の認可を受けた。現在,公益法人の制度改革が進行している折でもあり,農林水産省としても最後の公益法人認可ではないかといわれている。
公益法人になると何が変わるのであろうか。それは社会的責任である。任意団体は社会的に特に責任は負わないが,公益法人は,その名のとおり,公に利益をもたらすものでなければならない。日本フードスペシャリスト協会も何らかの公的責任を負う。
では,その責任は何なのであろうか。当然,第一の目的はフードスペシャリストの養成である。協会が誕生して10年になるが,未だ,フードスペシャリストの認知度は低い。何故低いのか。もちろん,誕生して間がないことが最大の原因だが,同時に,社会で活躍しているフードスペシャリストが少ないことも大きな原因である。フードスペシャリストの肩書きで,企業で活躍しているということもあまり聞かない。
フードスペシャリストと対比される管理栄養士を見てみると社会的にその知名度は高い。その理由を考えると,かつてから地道に行われている病院や学校での栄養指導に加えて,例えばスポーツ選手の栄養管理や,宇宙飛行士の栄養管理など新しい分野での活躍が目立つことがある。テレビをはじめとしたマスコミでも,管理栄養士という肩書のみで登場することが多くなった。他の職種では置き換えられない新しい職種を確立したことが管理栄養士の成功につながっている。少し古い話だが,テレビの連続ドラマで,相撲部屋で活躍する栄養士が取り上げられたのも,その表れである。
ということは,フードスペシャリストについても,他の職では置き換えられない職種を確立することが求められる。
その視点で現在の養成カリキュラムを点検すると,フードスペシャリストとしての特徴が強く押し出されているとは言いがたい。栄養学・食品学・調理学といった栄養士養成課程の科目に,官能検査やフードコーディネートなどの専門分野が加えられてはいるが,フードスペシャリストがどんな知識・技術を備えているのか一口ではうまく説明できない。学生が就職の面接で困っているという話も聞く。これに対して,近年,知名度が上がっている野菜ソムリエなどは,その内容を一口で説明できる。フードスペシャリストにはこれだけは自慢できるという何かを身につけさせる教育が望まれる。
社団法人として認可された際の社会的使命のもう一つが食育の推進である。食品産業を通じて国民に食育を実施する役割が求められた。ところが,この食育も総論明確,各論不明確で中身をとらえることはなかなか難しい。フードスペシャリストがどう食育にかかわっていくのか,自問自答が続いている。
フードスペシャリスト協会は設立十年を迎えて,多くの大学・短期大学に支持されてきたが,社会的責任を果たすには,もう一歩飛躍が必要であろう。公益法人化はその第一歩ととらえたい。
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