平成20年9月1日
社会科教育と食育
国士舘大学教授 北 俊夫この著者の書いた書籍
食育基本法の施行,食育推進基本計画の策定によって「食育」が国民運動としての盛り上がりをみせている。学校における食育といえば,給食の時間をはじめ,家庭科,技術・家庭科,体育科(保健領域),保健体育科,特別活動(学級活動)などの教科等を連想する。どうしても実際に食べたり調理したりする場面を思い浮かべるからであろう。
平成20年3月に告示された小・中学校の新しい学習指導要領には,その総則に健康教育の一環として「学校における食育の推進」が初めて示された。食育は学校の全教育活動で展開する教育課題であり,今後,あらゆる教科等で食育との関連を考え,実践することが課題になる。
社会科は社会生活や日本の産業や歴史,政治などについて学習する教科であり,食育は食べる営みに関する教育である。両者は関係なさそうにみえるがそうではない。小学校社会科では,地域の農家をとり上げ,そこで働いている人たちの仕事の様子を学ぶ。実際に田畑を見学したり,JAの職員や農家の人たちから話を聞いたりする活動が行われている。地元で生産された野菜が学校の給食に使われていることをはじめて知ることもある。
生産された農産物や水産物を市場やスーパーマーケットなどに運ぶ仕事もとり上げられている。そこでは,新鮮な状態で運ぶためにさまざまな工夫をしていること等運輸の働きを学ぶ。日本の食料自給率(カロリーベース)は低く,不足している部分は外国からの輸入に頼っていること,そこでは貿易が重要な役割を果たしていることについて理解する。運輸や貿易は食材を運ぶ仕事であり,食料を確保するための重要な役割を果たしている。さらに,食の安心・安全にかかわって,農薬や化学肥料の散布の問題,オーガニック栽培も扱われている。
食材を生産したり運搬したり,さらに販売したりしている人たちの工夫や苦労を学ぶことは,働く人に対する理解を深め,これらの仕事と自分(たち)の生活とのかかわりを食をとおして理解することである。このことは,食材に対する感謝の念を育てることにもつながる。
歴史についての学習も食育とかかわりがある。地域の郷土資料館や博物館を訪ね,昔の食生活の様子やそこで使われていた道具を調べる。食にかかわる年中行事や伝統芸能,文化財が取り上げられることもある。日本の歴史の学習では,狩猟や採集,稲作の始まり,貴族や武士の食生活,文明開化における食の西洋化,太平洋戦争中の食生活など,食の視点から歴史的事象がとり上げられる。
文部科学省が示した食育の目標例には「食物の生産等にかかわる人々への感謝する心」や,「各地域の産物,食文化や食にかかわる歴史等を理解し,尊重する心」をもつようにすることがあげられている。社会科の授業をとおして,子どもたちに生産と流通・販売,安心と安全,そして歴史的な側面から食に対する理解を深め,食料生産に対する関心をもたせることができる。これからの食生活のあり方を考える貴重な機会にもなる。社会科は食育推進の一翼を担う重要な教科である。
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