建帛社だより「土筆」

平成22年1月1日

生物学を学ぶということ

東京農業大学短期大学部 教授  古庄 律この著者の書いた書籍

 たち人間はどうして地球上に出現することができたのだろうか。

 たりまえだが,違う天体から移り住んできたわけではなく,また,聖書に書かれているように神様がアダムとイブをお創りになったのが起源であるわけでもない。地球が46億年前に誕生し,最初の生命体(原始生物)が出現したのがおよそ38億年前と推定されている。そして,長い年月を経て地球とともに生物も進化を続けながらおよそ400万年前に人間の祖先が誕生した。

 の私たちとほぼ同じ人類が地球上に存在している時間は,46億年前の地球誕生を1月1日とすると最後の一日である12月31日くらいということになるのだそうだ。その人類は今,地球上でもっとも繁栄する生物のひとつとなっている。たった一日で生物界の頂点に立とうとしているのだからすごいことだと思う。

 代の生物学は,分子レベルから細胞,生物,さらには地球の環境全体までと非常にグローバルな領域をもつ学問になっている。そこで研究され得られた知見は,私たちの日々の生活においても,医学・薬学・工学・農学・食品学・栄養学など様々な分野で応用されているものが多い。私たちはごくあたりまえの教養として生物学を知っていなければならない時代なのである。

 学校に入学すると早々に理科の授業が始まり,高校までは必ず生物に関することを学習している。ところが,大学受験で「生物」を受験している学生の皆さんも,大学に入学するとすっかり「生物」のことは忘れていることが多いのが現実で,近年では理系大学でも「基礎生物学」といわれる高校生物の復習授業が開講されている有様だ。

 の理由のひとつは,受験生が「生物」を暗記科目として言葉や内容を覚えてしまおうとしているからであろう。だから,忘れてしまうのも早いのだ。本来,「生物学」とは自分の「目で見て」,「手に触れて」,「考察する」という学問で,決して暗記する学問ではない。生物学は,「私たち人類を含めた生き物が地球でどのように進化しながら繁栄してきたのか。そして,私たち人類はこれからどのように地球とともに生きていくべきか」を考える哲学的学問であると思う。

 う考えると,「生物学」は私たち科学の領域を求道する者だけに限らず,奥深い魅力的でワクワクする楽しい学問であるはずだ。様々な角度から「生物学」を学び議論していくことが,今問題とされている,近代の人類がもたらした地球環境の変化にいち早く対応するための答えを探し出す方法であろう。

 と10億年後には太陽エネルギーが強まり,その放射熱の影響で水星や金星のように地球は水も空気も存在しない「死の星」になると予測されている。それは地球のもって生まれた運命ともいえる。しかし,一日の覇者である人類が己のおろかな行為によって地球の寿命を縮めることなどは到底許されるべきでない。そのようなことも「生物学」は学びの中で私たちに教えているように思える。

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第91号平成22年1月1日