建帛社だより「土筆」

平成23年9月1日

コラーゲン―ゼラチンのトロミ調整食品としての利用

大妻女子大学教授  大森 正司この著者の書いた書籍

 ラーゲンは人体の真皮・腱・軟骨・筋肉を包んでいる膜などを構成しているたんぱく質の一種で,豚足・軟骨・魚皮などに多く含まれる物質です。身体の維持・増強や老化防止だけでなく,角質細胞の働きを活性化して若返らせる成分として,脚光をあびているものでもあります。

 ラーゲンは健康・美容の優れものとしてベストセラー的物質でもありますが,加熱すればゼラチンとなり,そのゼラチンは各種煮こごり料理・ゼリー状食品として利用され,調理素材的にみても面白い成分であると考えられます。トロミ調整食品と料理への利用について,いくつか紹介したいと思います。

①煮こごり

 ・豚・鶏の骨や皮,筋・魚のあらなどをよく煮てだしをとり,そのまま冷却すると,時折煮汁は凝固します。これは「煮こごり」といわれるもので,筋肉や皮,筋中に含まれる不溶性たんぱく質のコラーゲンが熱によって可溶化され,ゼラチンが水溶性物質となって溶出したものです。結合組織の多いホシザメ・ヒラメ・マコガレイ・エイなどは煮こごりのよい材料となります。

 肉の構成たんぱく質は食塩に可溶のミオシン・アクチンに代表される構造たんぱく,水や希食塩に可溶なミオシンに代表される筋原たんぱく,そして水や食塩に不溶のコラーゲンに代表される基質たんぱくに分類されます。基質たんぱくは筋衣や腱を構成し,このたんぱく質の多い魚肉は,煮魚にして冷えたとき,煮こごりを形成します。

②ゲルとゾル

 ラチン溶液(ゾル)を冷却するとゲル化して凝固し,加温するとゾル化し,ゾルとゲルを繰り返します。

 ラチンは水に浸漬してふやかして加熱すると,溶解します。吸水したゼラチンを加熱すると,溶解してゾル化しますが,加熱法としては直火法よりも湯煎法のほうが効果的です。溶解したゼラチンゾルも,一定時間放置するとゲル化します。ゲル化には,ゲルの濃度と湿度が密接に関係し,ゼラチン濃度が低い場合には,凝固温度もより低くならないと,ゲル化が生じません。

③ゼラチンの効果

 ラチンはコラーゲンを加熱することによって得られ,コラーゲンの高次構造が熱変性によって生じたものです。その昔,ゼラチンは膠として,各種工芸品製造用に用いられていました。近年は食用ゲル化剤としてゼリーなどに一般的に用いられています。それ以外にもヨーグルト・ハム・ソーセージ・菓子類など,広く用いられています。ゼリーは嗜好品故に多数の種類がありますが,パイナップル(ブロメライン)やキウイフルーツ(アクチニジン)等のように,たんぱく質分解酵素活性の強い酵素活性を有している果物では,ゼラチンたんぱく質が分解されて,うまくゼリー化が進みません。調理の際,これら果物のたんぱく質分解酵素を,事前に何らかの方法で失活させておくことが必要です。

 ラチンの熱によるゾル―ゲル可逆性の変化は,微生物がたんぱく質分解酵素を有しているか否かの試験にも用いられ,ゼラチン液化試験法として知られています。また近年は,嚥下障害の患者用にチューブ食が開発され,いわゆるトロミ食品のための素材としても,注目されています。

 れは健常人においても利便性が高く,さまざまな種類のものが開発されるようになりました。ゼラチンゼリーは共用する成分がゲル化に大きく影響し,特に,砂糖は糖度が高くなると,凝固温度も高くなることが報告されています。

 の度建帛社から刊行された『コラーゲンとゼラチンの科学』は,その基礎から応用までがまとめられています。入門書として活用できるばかりでなく,専門書としても利用できる大変幅の広い内容で構成されており,大いに役立つものと思います。

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第94号平成23年9月1日