建帛社だより「土筆」

平成23年9月1日

食品の表示 特に栄養成分表示に求められるもの

公益財団法人                          日本健康・栄養食品協会                   前栄養食品部兼特定保健用食品部部長  橘川 俊明この著者の書いた書籍

 工食品の表示には期限表示や原料・原産地表示をはじめ種々の表示が法律で定められている。それぞれの表示の意味するものはその種類により異なり,表示についての基礎知識があまりなくても消費者が利用できるものと,十分な知識がないと有効利用できないものがある。

 者には期限表示があり,おいしく食べられる賞味期限や安全に食べられる消費期限の表示である。ほかに原料・原産地表示についても消費者が望む産地の原料を使った食品が選択でき,有効に活用できる。アレルギー原料の表示もその原料にアレルギーをもつ消費者にとっては貴重な表示といえる。

 方,消費者庁で平成22年12月から平成23年7月まで検討会が行われた栄養成分の表示についてはどうであろうか。日本人が健康的な生活を送るために必要とする一日あたりの食事による栄養摂取量の基準については食事摂取基準に示されているが,一般の消費者にとってはきわめてなじみが薄い。それぞれの消費者がどのような栄養状態にあり,摂取することが望ましい栄養素や控えることが望ましい栄養素を把握するには十分な知識と豊富な経験が必要となってくる。食品に栄養成分表示をするだけでは,消費者は表示された数値をなかなか活用できないのではないだろうか。

 回の「栄養成分表示検討会」は残念ながら消費者庁の意向で「義務表示ありき」の視点で検討がスタートした。食品の表示として一定の栄養成分の量を記載することで消費者が十分活用できるのか。単なる栄養成分量の記載に終わらずに消費者が活用するためにはどのような記載の方法が適当か。栄養成分表示を容易に利用するための工夫はどのようにしたらよいか。すでに栄養成分表示を義務化している国におけるその目的が日本でもふさわしいといえるのか。また,それらの国では栄養成分表示の成果が上がり,国民の栄養政策,健康政策推進にプラスとなっているのか。消費者庁が都内のスーパー3店舗で調べた結果,加工食品の約8割に栄養成分表示が記載されているとのデータがあるが,それらは消費者に利用されているのか。

 上のような議論が検討会で十分なされたとはいえない。栄養成分表示が単なる「かざりもの」で消費者に活用されないのであれば,食品を購入する消費者も負担しなければならない義務化に要するコストは,無駄な負担にもなりかねない。

 養成分表示の義務化が現在の日本で必要なのか,また栄養成分表示を十分活用する体制は整っているのか等々義務化に向けての議論・検討は残念ながらなされなかった。本紙発行前の8月には検討会の報告書が公表される予定であるが,今後の国の健康政策・栄養政策の中で,栄養成分表示が活用される施策が生まれることを期待したい。

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第94号平成23年9月1日