建帛社だより「土筆」

平成23年9月1日

東日本大震災と日本栄養士会の取り組み

(社)日本栄養士会専務理事  迫 和子この著者の書いた書籍

 “3.11”,日本人にとって忘れられない数字になりました。大地震と大津波,その中から生還した被災者の方々の思いは察するに余りあるものがあります。また,映像を通じて,私たち国民の一人ひとりがその酷さと恐ろしさに震え,何か支援したいという思いを抱きました。

 本栄養士会(以下,「本会」)は,3月15日に本会会長である中村丁次を本部長として災害対策本部を設置し,被災県に対し,職能団体として管理栄養士・栄養士による人的支援および物的支援を行うことなどを決定し,取り組みを開始しました。

 3月26日からの現地調査では,避難所の食事がおにぎりや菓子パンなどの炭水化物中心でたんぱく質源や野菜がほとんど提供されていないこと,炊き出しの有無により栄養摂取状況が違うことなどを確認しました。K避難所の食事提供記録から概算で提供栄養量を一週間分計算した結果では,エネルギーが一人一日当たり720~930キロカロリー,たんぱく質が17~29グラムで,炊き出しを食べた方はエネルギー1,200キロカロリー,たんぱく質35グラムでした。これは厚生労働省が示した被災後三か月までの当面の目標とする栄養参照量(エネルギー2,000キロカロリー,たんぱく質55グラム)からはるか遠い数字でした。

 4月4・5日に行った気仙沼市の避難所における食事の提供状況等についての簡易な調査結果(有効回答71か所)では,食事を一日三回供給している避難所が66か所,主菜であるたんぱく質を多く含む食品(肉,魚,卵等)の供給が一日一回以下の避難所が25か所,副菜として野菜の供給(味噌汁除く)が一日一回以下の避難所も25か所,果物が一日一回以下の避難所は62か所。これらを補うことができる牛乳・乳製品や野菜ジュースが供給されていた避難所も非常に少なく,被災後三週間を経過したにもかかわらず明らかな供給不足で,阪神淡路大震災や中越地震とは全く違う状況であることを実感しました。

 会による災害支援管理栄養士・栄養士(以下,「災害支援管理栄養士等」)の派遣は2011年7月1日現在341人(延べ1,700人)で,宮城県気仙沼市,石巻市等,岩手県釜石市,陸前高田市等で活動しました。ホームページ等での登録受付開始から,全都道府県,さらにはアメリカからも登録がありましたが,勤務をやりくりして登録していただいており,日程が合わず大勢の方が派遣できないままになってしまいました。

 地では,余震の頻発やライフラインの復旧が不十分であることなどから,内陸部に活動拠点・宿舎を設け,そこから通う形で支援に入りました。主な支援内容は,在宅訪問栄養相談の実施,避難所巡回および栄養相談,福祉避難所(要介護・要支援者等)等への調理支援,救援物資の整理・確認,物資支給などです。

 の中で,6月26日に災害支援管理栄養士等による情報交換会を開催し,参加者全員からご意見をいただきました。「長期継続的に支援に入る必要がある」「あっという間に派遣期間が終わってしまい,十分な活動ができなかった」等,派遣期間の問題や,「現地に行くまで自分が何をするのか,わからなくて不安だった」「現地の情報をリアルタイムでほしい」等の情報提供に関するご意見もいただきました。そのほかにも,「自分の役割を考えた」「専門職としてこの活動に参加できてよかった」「個人ではできない支援を,組織を通じて行えた」等のご意見もいただきました。

 害時は,平常時とは全く違う状況の中で活動していくことが求められます。本会では,ご意見や今回の活動を通じて把握した課題をもとに,災害派遣栄養支援チーム(仮称D‐DAT)を構築することとしております。

 的支援については,被災地のニーズに基づき支援することとして,ビタミン強化米やサプリメント,牛乳・乳製品や飲料,離乳食,高齢者用や病者用の食品,濃厚流動食,さらには食器や衛生物品等,総額二億円相当の支援を行いました。当初,支援物資は国の一元管理のもとに県・市町村を通じて被災者に届けるという仕組みの中で,本会でも災害支援管理栄養士等に携行していただきたい食品が手に入りませんでした。そんな中,本会事務局からの無理なお願いにもかかわらず賛助会員各社のご協力をいただき,必要なものをすぐに,確実に届けるために,現地と調整のうえ,受取者を指定して配送しました。これにより,災害支援管理栄養士等をはじめ被災地栄養士会,さらには行政の栄養支援活動において確実に使用していただくことができました。

 的支援と物的支援について述べてまいりましたが,大規模災害においては専門職が十分その機能を発揮していくことが求められます。しかし,一人でできることは限られています。

 回,本会が全国組織として取り組んだ活動により,災害時の管理栄養士・栄養士の機能を明らかにすることができました。この成果をまとめ,発信することにより,災害時の栄養支援体制整備につながるものと考えております。

 難所は徐々に閉鎖・縮小され,仮設住宅等に移動するなど,新たなステージに入ってまいりました。本会では,仮設住宅での支援について新たな企画に取り組んでいるところです。

目 次

第94号平成23年9月1日