建帛社だより「土筆」

平成23年9月1日

食の安全「ユッケ・O‐111」覚えていますか?

東京家政大学准教授  森田 幸雄この著者の書いた書籍

 年(平成23年)5月,「ユッケ」を原因食品とした腸管出血性大腸菌O‐111の集団食中毒で死亡者が発生したことによって,食品に対する安全性が例年になく注目されている。日本の食中毒患者数や発生数が特別に今年,急増しているわけではないが,マスコミの報道により,食中毒が身近な脅威として再認識されている。

 本は過去に大きな食中毒を経験している。平成8年のO‐157の全国的な流行。平成10年をピークとした腸炎ビブリオO3K6,平成11年をピークとしたサルモネラ エンテリティディスや,平成18年をピークとしたノロウイルス遺伝子型G2/4等である。これらは20世紀後半から次々に地球上に変異というかたちで出現した新たな病原体である。今年(平成23年)5~6月に欧州で発生したO‐104は新たな病原体であり,地球規模で流行するのではないかと懸念される。

 たな病原体が出現すると,地球規模で感染が拡大し,多くの人が感染する。そして,その予防策として新たな行動を起こさなければならない。昔,卵は常温で保存するものであったが,今は冷蔵保存が常識である。日本全国で展開する牛丼チェーン店でも夏場は卵の販売を控えている。新たな病原体が出現すると新たな対策を行わなければならない例である。

 本は,大きな(話題となった)食中毒対策を迅速に実施している国であると思う。平成8年のO‐157の流行前の市販食肉の衛生状態と,対策後のそれとは大きく異なり,現今の市販食肉の食中毒菌の検出率は,平成8年以前に比べて極めて少なくなっている。目に見えないが,市販食肉は確実にきれいになっている。

 回の「ユッケ」を原因食品としたO‐111による死亡事故はどうであろう。7月初旬までで,O‐111が強い病原性を獲得した新たな病原体であるとの調査報告はない。私は,食品の流通形態や喫食形態が変わったにもかかわらず,プロとして人が毎日食べる「食品」を扱うという意識が低下したために起こった事例ではないかと思う。いつのまにかユッケが,アルバイトの多い焼き肉チェーン店のメニューの上に書かれていた。肉は首都圏で食肉処理されたものであった。しかも,低価格で。食品の流通形態や喫食形態は日々変化している。

 品の安全性を確保するためには,「農場から食卓まで」の衛生管理が必要である。今回のO‐111の食中毒事件では,家畜生産/農場↓食肉処理/食肉処理場・食肉卸業者→流通→販売業者/焼き肉屋→消費への衛生のバトンタッチ(清潔な食品を入手し,さらに衛生的にして次の流通に手渡す)が実施されなかったことに起因すると思われる。

 民やマスコミの関心がある今,肉の生食のリスクや食中毒予防の啓発をするよい機会である。しかし,日本人はすぐに過去を忘れてしまう国民になってしまったと,私は思う。この原稿が掲載されるときに国民はO‐111に関心があるか興味津々である。そんな折,汚染された稲わらを摂取した牛から放射性セシウムが検出された。O‐111は食肉管理,放射性セシウムは牛そのものの問題である。いずれにせよ早く解決し,安全に牛肉を摂取できることを望む。

目 次

第94号平成23年9月1日