平成25年1月1日
専門領域における調理科学についての一考
昭和女子大学大学院教授 森髙 初惠この著者の書いた書籍
専門とは,普通の人が知らない知識やできない技術を駆使して,社会に貢献することを指し,食・栄養に関する専門職の一つとして管理栄養士がある。「栄養士法」には,管理栄養士は,傷病者の療養のための栄養(臨床栄養)指導者,個人の健康の保持・増進のための栄養(公衆栄養)指導者,食事を提供する施設での給食管理や栄養指導者(給食管理の専門職)と定義されている。管理栄養士の資格を取得するには,国家試験に合格しなければならない。そのため,管理栄養士養成課程におけるカリキュラムの多くは国家試験のガイドラインに準拠していることから,基礎科目とされる調理科学の授業数は少ないのが現状である。
日本における平成23年の管理栄養士免許の交付数は8,478件,累積数では165,950件であり,海外と比較しても極めてその数は多い。そのこともあり,管理栄養士のすべてが栄養指導あるいは給食管理のみを行っているわけではなく,調理現場で働きながら栄養指導や給食管理に従事する者や,調理現場のみが仕事場となり,調理師や栄養士と共に働いている管理栄養士もいる。むしろ,管理栄養士といえども調理現場で働いている人数のほうが多いのではなかろうか。ここに,管理栄養士の制度と現実のギャップがあるように思われる。それらの現場においては,栄養学領域の知識は当然必要ではあるが,それに加え,調理科学の基礎的知識も不可欠となる。
食べる側から見た場合,身体によいから,あるいは疾病が改善されるからなどの理由で,短期間であれば嗜好性の低い食べ物でも食べ続けることは可能である。しかし,食事は通常1日3回,1年1,095回行われ,長い期間になると食べ続けることは困難となる。また,栄養指導を受ける場合,必要とする栄養素,減らすもしくは避けなければならない栄養素は2~3度その理論と共に説明されると理解される。しかし,そのことを毎日の食事の中でどのように実践していけばよいのか,献立はどうかなど,栄養指導を受ける側はむしろその点が知りたいのだと思う。多くのマス・メディアでタニタの社員食堂が取り上げられたが,これは生活習慣病の発症を予防・改善し,満足のいく食事が継続してできるためであったと思われる。
現在,日本は超高齢社会となり,身体機能が低下するために発症する誤嚥性肺炎が問題となっている。誤嚥性肺炎の死亡率は極めて高い。そのため,誤嚥や誤嚥性肺炎のリスクが回避でき,安全でおいしい食べ物が切望されている。ここにも,調理科学の理論が深く関係している。
食ベ物が単なる栄養源にとどまらず,潤いのある人間らしい生活や,生きていくうえでの意欲に重要な役割を果たすことを考えるとき,疾病を予防し,安全で嗜好性を高めるメカニズムを科学的に検証し,その理論を構築する調理科学の果たす役割は極めて大きく,管理栄養士にとっても重要な領域であると思われる。
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