建帛社だより「土筆」

平成25年9月1日

栄養・食糧学研究のアジア地域との連携

公益社団法人 日本栄養・食糧学会会長 東北大学教授  宮澤 陽夫この著者の書いた書籍

 本栄養・食糧学会は,平成23年から公益社団法人となり,社会に貢献する公益的な学術法人として順調に歩み出しました。本会は,敗戦後の日本の栄養不足に専門家が対処するため,昭和22年に設立され,今年で66周年を迎えます。栄養学と食糧学を連携させた新しい学問領域を,日本医学会の第14分科会として医学とも深い関係を保ちつつ,開拓し発展させてきました。本会は,日本の健康長寿の推進に学術面から貢献してきたと思います。

 在では,栄養過多,生活習慣病,老化性障害への対応など,社会環境の変化を反映して研究対象も変移し,多様化,深化してきています。今後,一層の研究の進展が期待されますし,栄養不足から栄養過多に至る諸課題についてのこれまでの研究成果は,特にアジア地域の健康福祉に大きく貢献することでしょう。この観点から,国際連携による研究推進が,今後ますます重要になると感じております。

 2015年に本会が主催する第12回アジア栄養学会議(ACN)は,これまでの栄養・食糧学研究の成果を集大成する事業です。この第12回ACNは,2015年5月14日(木)から18日(月),「みんなの健康長寿のための栄養と食糧」を主テーマに,パシフィコ横浜で開催されます。ACNは,国際栄養学連合(IUNS)のアジア地域の活動を担うアジア栄養学会連合(FANS)が,4年に一度開催する会議で,韓国,中国,台湾,インド,タイ,マレーシア,フィリピン,インドネシア,ベトナム,モンゴルなど18か国が加盟しています。この会議の目的は,アジアの栄養学と食糧科学の専門家が一堂に会し,アジア地域の栄養・食糧に関する諸問題の提示と解決,人々の生活の質向上,健康福祉の増進に貢献することです。

 本開催の経緯ですが,日本栄養・食糧学会に事前に開催打診があったことに始まります。その後,日本農芸化学会,日本食品科学工学会,日本栄養改善学会,日本臨床栄養学会など国内関係学会との間で誘致方針が決定され,2009年バンコクでの第19回国際栄養学会議会期中に開かれたFANS総会で,日本開催が決まりました。日本での開催は,1987年に大阪市で開催されて以来,28年ぶり二度目です。

 ACNの対象である栄養学と食糧科学は,基礎的な分子レベルの解析からヒトを対象にした実践的な臨床栄養研究までを含み,栄養学,食品学,医学,農学,生活科学,薬学,社会学など幅広い学際的領域です。長寿である日本人の伝統的な食習慣は,丁寧で多様な加工・調理法や,米穀類,魚介類,豆類,緑茶等の摂取,副菜の充実など,健康維持に優れた面に富み,食生活や食に関するこれまでの研究成果とともに,日本での開催はアジア地域の発展と健康福祉に大きく貢献すると思われます。この会議への参加を契機に,アジア各国,また異分野間の共同研究が広がり,栄養・食糧学研究が大きく進展することが期待されます。

 本は,終戦後の栄養不良を克服し長寿国となった経験から,栄養不良問題に対する政策,指導および教育に多くのノウハウを有しています。また,世界に先駆けて「機能性食品」の概念を提唱し,近年急速に広がりつつあるメタボリックシンドロームや生活習慣病の増加などの健康問題にも,エビデンスに基づく特定保健用食品の開発や,食生活改善,食事療法によるアプローチなど,国際的にもこの領域を牽引してきています。一方,アジアの多くの国では,飢餓や栄養不良が主問題でしたが,近年の急速な都市化,ダイナミックな経済発展,人口の急増,グローバル化に伴い,食事やライフスタイルに大きな変化が起こり,同じ国内,同じコミュニティ内に栄養不良と栄養過多が共存する状況にも陥っています。

 本の栄養科学や食品学の進展や,栄養教育のあり方は,参加されるアジア各国から手本になるものと期待されています。この会議には国内外から約四千人の研究者が参加の予定です。是非多くの研究者そして企業の皆様にご参加いただいて,この会議を盛り上げていただき,成功させたいと考えております。

目 次

第98号平成25年9月1日

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