建帛社だより「土筆」

平成25年9月1日

中国の大学(四川大学)の学生たち

東京家政大学教授  宮尾 茂雄この著者の書いた書籍

 国・四川省の成都にある四川大学(川大)で客員教授として授業を行うようになって11年目になる。日本の9月はまだ夏休みであるが,中国では新学期が始まる。その間を利用して二週間ほど食品加工学を専攻している学生に対し,日本の発酵食品や伝統食品に関する集中講義を行っている。講義のほかに,地域の野菜生産地や食品企業に出かけて調査や技術指導を行うことも多い。

 大は豊かな大地と暖かな気候をもつ「天府の国(豊かな土地)」と称される成都にある総合大学である。成都は三国志で有名な諸葛孔明や劉備玄徳の活躍した舞台としても知られている。川大は,北京大学創立の二年前にあたる1896年の創立で歴史のある国家重点大学の一つである。一般学生数は約4万人,修士・博士研究生は約2万人,海外からの留学生は1,000人を超える。専任の教授と准教授は合わせて約4,000人である。

 本の大学と協力関係があり,東京大学,北海道大学など十数校の大学と交流がある。また,日立,トヨタなどの民間企業との交流も進められており,成都市内で数店舗を構える伊藤洋華堂(イトーヨーカ堂)は優秀な学生に対して奨学金を提供するなどの活動を行っている。

 国の大学生は通常,学校の寮で四年間あるいはそれ以上の期間,集団生活を行うことになる。川大では教学区と生活区に分かれており,生活区には,銀行,郵便局,病院,スーパーマーケット,クリーニング店,レストラン,ディスコ,劇場など生活に必要なものはほとんどそろっている。構内では信号のある道路をタクシー,バイク,自転車などが行き交っている。寮は4人から8人部屋が一般的で,食事は学内の食堂で済ませる。授業の風景は日本とあまり変わらないが,技術系の学科では,日本よりも実学的な要素が強い傾向がみられる。

 た,個人学習は狭い寮の部屋よりも図書館を利用している学生が多い。大学の図書館は朝の8時から午後10時まで開いており,早朝,図書館の入口で開館を待って列をつくって並んでいる学生たちをよく見かけた。成績がよいと奨学金をもらうことができることもあって多くの学生は勉強熱心である。勉強の後は,バスケットやサッカーで気晴らしをしている。

 国の経済成長は目覚ましいものがあり,中国の将来を大学生が担っていくという意気込みを講義の中でひしひしと感じることも多い。このように高度成長を遂げている中国であるが,思いのほか大学生の就職状況は厳しく就職難が続いている。その背景には大学の入学定員が増加したことや大都市の優良企業にこだわる学生が多いことがあるようだ。そのようなこともあって,川大の院生は卒業後,アメリカやオーストラリアなどに留学する者が多いと聞いている。昨年来,領土問題で日本と中国の間ではギクシャクした関係が続いているが,学問の世界にまで持ち込まれないことを私だけでなく川大の先生方も願っている。

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第98号平成25年9月1日

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