建帛社だより「土筆」

平成25年9月1日

障害者の権利に関する条約「合理的配慮」とガイドライン

弘前医療福祉大学准教授  斉藤 吉人この著者の書いた書籍

 「障がい者制度改革推進本部」は2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」の批准を目指し,国内のさまざまな方面で調整を続けている。その中で,この条約に含まれている「合理的配慮」という概念が注目されている。「合理的配慮(Reasonable Accommodation)」とは,1990年のADA法(障害のあるアメリカ人法)に由来する概念で,障害のある人の能力発揮を最大限実現するためには,環境因子や障害への配慮を行うことが社会的に当然の責務であるとする考え方である。また,「合理的配慮」を行わないことは国内法に抵触する「差別」であるとしている。

 ンクルーシブ教育システムの構築を目指す文部科学省は,中央教育審議会初等中等教育分科会「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において「合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ」を設置し,合理的配慮の具体的な内容を検討し公表している(合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ報告,平成24年2月13日,文部科学省)。ワーキンググループでは初等中等教育における「合理的配慮」を,「障害のある子どもが,他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために,学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり,障害のある子どもに対し,その状況に応じて,学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり,かつ「学校の設置者及び学校に対して,体制面,財政面において,均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義している。そして「合理的配慮」を行うために必要な「基礎的環境整備」の充実を求めている。

 上は初等中等教育行政に起きている変化だが,大学全入時代の今日にあって,高等教育機関の取り組みも始まっている。日本学生支援機構は高等教育機関における障害のある学生の実態調査を毎年実施している。この調査から発達障害と診断されている学生が急増し,その対策が急務であることが指摘されている(「大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」)。このことは,平成17年に施行された発達障害者支援法においても「大学及び高等専門学校は,発達障害者の障害の状態に応じ,適切な教育上の配慮をするものとする」として言及されている。しかし,全国的な取り組みの状況は一様ではない。

 もそも,発達障害に対する「合理的配慮」がどのようなものか明確な規定はない。情報の視覚的構造化,セルフ・アドボカシー(当事者による権利擁護活動)支援体制等が含まれると考えられるが,個別性を考えれば,障害のある学生・教員を含む校内調停機関づくりが行われることが望ましい。そして,それらの経験の中から,普遍性のあるガイドラインが構築されるべきではないだろうか。

目 次

第98号平成25年9月1日

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