建帛社だより「土筆」

平成25年9月1日

ロンドン食事情

大妻女子大学教授  田中 直子この著者の書いた書籍

 ギリスと言えば「食べ物がまずい」と思う人が多いのではないだろうか。帰国後「食べ物はどうだった?」と聞かれることも多いのだが,答えようとするとハタと困ってしまう。YesかNoで答えるのが実に難しい問題なのだ。私の体験したロンドンの食事情について,ささやかながら感想をまとめてみたい。

 コンビニは世界に自慢できる日本の文化! ロンドンにもコンビニはある。深夜まで開いていてとても便利である。しかしながら,扱っている食品は簡単な加工食品,サンドイッチ,野菜,果物程度。手軽で便利だが,残念なことにあまりおいしくない。私は,日本のコンビニの偉大さを,ロンドンでの最初の一か月で思い知ることとなった。

 高いものはおいしい/安いものはまずい 当たり前のようで,日本ではあまり当たり前でないこの法則。ロンドンではピタリと当てはまる。日本人なら誰でも「安くておいしいもの」を探したくなるが,ロンドナーは,安ければまずくてもしょうがないと思うらしい。

 世界中のおいしい料理 ロンドンは人種のるつぼである。一説によると,ロンドン中心部に住んでいるのはそのほとんどが外国人とか。ロンドンには世界各国のレストランがあると言っても過言ではない。母国をなつかしむための店には本物の味が詰まっている。日本でなかなか食べられないような国の料理をロンドンで食べる。意外とおすすめである。

 ロンドン日本食事情 日本食はロンドンでも大人気だ。特に寿司。居酒屋も人気だ。日本人が経営するまさに日本の味!と思う店に感激したり,これを日本食と思われたら困るなと思う店が大人気なのに苦笑したりもした。日本の食材を売っている店も大人気だ。日本米や調味料だけでなく,そば,うどん,納豆,魚,日本野菜など基本的に何でもあって,店内は日本人だけでなく各国の人たちでいつもにぎわっていた。

 イギリス料理? イギリスの味と言えば? フィッシュ&チップス? ローストビーフ? 私の場合はサンドイッチ。パンも中身もその素材の素朴な味が最大限大切にされた英国流サンドイッチ。どの店に行っても代わり映えせず,パンも微妙にパサパサ。なのになぜかクセになる。今,何が恋しい? と言われたら,「サンドイッチ!」と答える自分に思わず微笑んでしまう。

 イギリス人の味覚 誤解を恐れずに言えば,イギリス人はおいしさを「極める」という感性を全く持ち合わせていないように思う。日本人が,昨日より今日,今日より明日と,よりおいしいものを追求していくのに対して,イギリス人は素材の味を壊さないよう,昨日おいしかったものを今日も明日も同じように食べて暮らす。他国の食べものに対する接し方もしかり。日本人がどんどん日本人好みにアレンジして行くのに対して,イギリス人はそのままの味を尊重し,大切にしているように見える。

 て,イギリスの食べ物は,おいしいのか,おいしくないのか,どう思われただろうか? 興味をもたれた方には,是非自身で試してみることをおすすめしたい。そしてそのときには,お金をケチらないことが大切である。

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第98号平成25年9月1日

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